政策学会講演会特集
政策学会講演会(レポート)
『ウクライナ情勢をめぐる世界的展開』
テーマ | 『ウクライナ情勢をめぐる世界的展開』 |
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講師 | 月村 太郎教授、吉田 徹教授、富樫 耕介准教授 |
日時 | 2022年5月19日(木)16:40~18:10 |
会場 | 臨光館2階 R201 |
2022年5月19日、同志社大学中核的研究拠点地域紛争研究センターとの共催で、政策学部教員の月村太郎、吉田徹、富樫耕介によるシンポジウム「ウクライナ情勢をめぐる世界的展開」が行われた。
月村報告では、第一に、ウクライナ戦争を分析する前提となるウクライナ、バルカンとロシアの歴史的関係が紹介され、ロシアの南進政策の影響が指摘された。第二にウクライナの民族・国民に関する説明が行われた。民族は文化を一つにする共同体であり、言語と宗教による彼我化が指摘された。一方で、国民とは政治的共同体であるとされた。そのうえで、国民としてのウクライナ人の構成が、少数のロシア系やロシア語を母語とするウクライナ系の人々を包含する複雑なものであると指摘された。宗教面では、東方正教会の信徒が多く、自治教会制(主教の下に教会が自治的に存在し得る制度)について説明がなされた。
吉田報告ではEU、フランスの視点からウクライナ戦争の分析と今後の展望が試みられた。報告者はまず、三つの視点を提示した。第一の「フランス大統領選の結果」に関しては、マクロンの「相対的勝利」により「リベラルな国際政治秩序」の維持とEUの「進化」の可能性が指摘された。第二の「ウクライナ戦争へのEUの対応」では、EUが難民の受け入れや国防装備品の提供を行い、ロシアに対しては、SWIFTからの除外や天然資源の禁輸の模索といった脱ロシア化の動きがあると指摘された。最後の「『歴史の転換点』に際しての欧州統合の対峙とウクライナ戦争の影響」に関しては、マクロンは全会一致原則の見直しやウクライナの受け皿としての「欧州政治共同体」の創設などの提唱を行い、こうした改革の動きが多速度的なEU統合を認めるものであったと分析した。
-富樫報告はロシアがなぜウクライナ戦争を開始したのかを紐解くために、過去の軍事介入や戦争からロシアが如何なる「教訓」を得て、これを生かしたのか(または生かすことに失敗したのか)を考察した。第一次チェチェン紛争では、電撃的勝利を予測したものの、紛争は泥沼化し交渉を余儀なくされた。だが、この「教訓」を生かした第二次チェチェン紛争では、チェチェンを交渉不能なテロリストとみなすことで、力による弾圧を正当化できるとの「教訓」を得た。ジョージア戦争では戦闘には勝利したものの、分離地域を通した圧力による外交政策では失敗した。以上のことから、ウクライナ戦争においてロシアは、ゼレンスキー政権を交渉不能な「ネオナチ」と公言し、政権崩壊を目的とし軍事介入を行ったのではないかとの見方が提示された。しかし、ロシアの楽観予想を裏切るウクライナ側の抵抗と西側の支援で全面的戦争に至ったと分析した。
最後に、月村より、ドローンや民間軍事会社の登場といった21世紀の軍事革命の一方で、19世紀の「戦争観」がいまだ継続しており、その「時差」がウクライナ戦争の問題の一つである可能性が指摘された。
報告後に、ロシア侵攻後のウクライナの体制の継続に関する質問やマクロンが提唱する「欧州共同体」の意味に関する質問などが寄せられ、シンポジウムが終わった後も、意見の交換が行われた。
(政策学部教授 月村 太郎)
(政策学部教授 吉田 徹)
(政策学部准教授 富樫 耕介)