政策学会講演会特集
政策学会講演会(レポート)
『難民支援の現場~ウクライナ・ロヒンギャの事例を通して~』
テーマ | 『難民支援の現場~ウクライナ・ロヒンギャの事例を通して~』 |
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講師 | 中坪 央暁氏 |
日時 | 2022年12月6日(火)16:40~18:10 |
会場 | 新町キャンパス 尋真館Z30 |
去る12月7日,政策学会講演会に認定NPO法人難民を助ける会〈AAR Japan〉(以下AAR Japan)の中坪央暁氏をお迎えし,「難民支援の現場~ウクライナ・ロヒンギャの事例を通して~」というタイトルのもとでご講演いただいた。中坪氏は,同志社大学文学部をご卒業後,毎日新聞社で海外特派員・編集デスクを務めた後,国際協力機構(JICA)の派遣でアフリカ・アジアの紛争・復興・平和構築の現場を取材してこられた。2017年にAAR
Japanに入職されて以降は,ロヒンギャ難民やウクライナ難民の支援に携わっておられる。今回は,これらの人道危機に対する支援現場について現地からの映像と共にお話しいただいた。
ご講演では,AAR
Japanが設立された背景や活動内容,また世界における難民問題の現状についてご説明いただいた後,まずはウクライナ難民についてお話しいただいた。他の難民とは異なり,ウクライナ難民の場合,その約9割が女性と子どもであることに加え,難民が発生した当初は一般市民や企業など市民社会が主体となって支援を行っていたこと,また難民キャンプが存在せず,ウクライナの人々はEU域内を自由に移動することが可能であるなどといった特徴が見られることをご指摘された。そのような中,AAR
Japanがポーランドの修道会と連携して行っているウクライナ国内の避難民に対する支援や障がい者支援,また英国のNGOヘイロー・トラストと連携して行っている地雷除去の支援事業などについて写真や映像と共にご説明された。ロシアによる軍事侵攻が長期化し,「ウクライナ疲れ」が見え始める中,紛争後の復興にも時間を要することから,継続的な人道支援が国際社会に求められていることを強調された。
ご講演の後半では,ミャンマーから隣国バングラデシュに逃れたイスラム少数民族のロヒンギャ難民に視点を移され,ロヒンギャ難民が発生した背景などについてご説明いただいた。また,ウクライナ難民とは異なり,ロヒンギャ難民は世界最大の難民キャンプで暮らしていることをご説明され,女性や子どもの保護が重要であることをご指摘された。これに対し,AAR
Japanは,女性の尊厳を守る施設として水浴び室を設置したり,また難民キャンプは人身売買や性的暴行など様々な危険にさらされやすい環境であることから,そういったリスクに関する啓発活動の実施や女性が安心して活動できる場の提供などを行っているとご説明された。ロヒンギャ難民の問題は長期化が必至であることからも,国際社会がこの問題から目を逸らすことなく支援し続ける必要性を強調された。
最後に,中坪氏は現在進行形で発生している出来事を認識する大切さをご指摘され,「危機にある人々を助けられるのは,同じ時代に生きる私たちしかいない」という強いメッセージでご講演を締めくくられた。講演会では参加者から数多くの質問があり,難民問題に対する関心の高さがうかがわれ,今回のご講演は参加者にとって難民問題の難しさや難民支援の現状を知る貴重な機会になった。
(政策学部教授 新見 陽子)