政策学会講演会特集
政策学会講演会(レポート)
『アフリカの開発を目指して』
テーマ | 『アフリカの開発を目指して』 |
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講師 | 大塚 啓二郎氏 |
日時 | 2022年6月21日(火)16:40~18:10 |
会場 | Zoomにて開催 |
去る6月21日,政策学会講演会に神戸大学社会システムイノベーションセンターの大塚啓二郎特命教授をお迎えし,「アフリカの開発を目指して」というタイトルでご講演いただいた。大塚教授は,開発経済学の第一人者で,長年にわたりアジアとアフリカにおける農業と工業の発展戦略に関する研究に従事されてこられた。今回は,アフリカの農業と工業の発展について,特にアジアからアフリカに広がる日本の稲作技術や産業集積の発展についてお話しいただいた。
ご講演では,まず,1966年以降にアジアで起きた「緑の革命」についてご説明された。大塚教授は,緑の革命の成功の背景には,高収量品種および化学肥料のみならず,基本的な栽培技術の採用も不可欠であったことを強調された。アジアとは対照的に,サブサハラ・アフリカでは緑の革命が長年失敗しているものの,今世紀に入り,この地域においても稲作の平均単収の増加がみられるようになり,これはサブサハラ・アフリカでも緑の革命が起きていることを示唆するものであるとご指摘された。大塚教授は,サブサハラ・アフリカにおいて確実に緑の革命を実現させるためには,栽培技術の指導が重要な要因になることを強調された。実際,大塚教授がモザンビークやタンザニア,ウガンダ,コートジボワールで実施された調査では,栽培技術の指導によって生産性が上昇することが示されているとご説明された。
ご講演の後半では,農業から工業に視点を移され,産業集積の発展についてご説明いただいた。産業集積には2つの発展パターン—「停滞型」と「発展型」—があり,その産業において「革新」が生まれるか否かが,その産業の集積が停滞型になるのか,あるいは発展型になるのかを決定づける要因になるとご説明された。ここでの「革新」とは,創造的破壊をもたらすような画期的な変化というよりも,創意工夫一般を指し,産業集積の発展においては「多面的革新」が鍵になるとご指摘された。ただし,模倣がしやすい産業においては,革新者が創り出した有益な知識は,他の企業家が模倣することで産業全体を潤すものの,この場合,革新者の私的利益が社会的利益を下回ることで革新を起こそうとするインセンティブを弱めてしまうため,革新が起こりにくい。そのため,産業集積の発展に不可欠な革新を引き起こすためには,政府や国際機関が経営指導などといった支援を提供することが重要であるとご説明された。
最後に,農業においても工業においても,その発展においては海外から学ぶことが重要であり,技術指導・経営指導などといった政策的支援が必要であることを強調され,ご講演を締めくくられた。講演会には開発政策を履修していない学生も数多く参加し,参加者からは時間内に対応しきれない数の質問が出た。大塚教授には,時間の許す限り,一つひとつの質問に丁寧にご回答いただき,大変有意義な講演会となった。
(政策学部教授 新見 陽子)