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日本銀行の深い悩み

投稿者 野間 敏克:2023年2月1日

投稿者 野間 敏克:2023年2月1日


 2022年12月21日の日経新聞に「日銀 異次元緩和を転換」という記事が載りました。前日に開かれた日本銀行の金融政策決定会合の内容を知らせるものです。
 日銀は、黒田総裁が就任した2013年から「量的質的金融緩和」と呼ばれる異次元の金融緩和を続けてきました。国債などを銀行等から購入する「買いオペ」によって貨幣量を増やし、デフレからの脱却を目指す政策でした。その結果少し景気がよくなり失業者は減りましたが、デフレ脱却とまでは言い切れませんでした。その後景気の方も怪しくなったため、買いオペを拡大し、少しずつ政策に変更を加えてきました。
 大きな変更の1つは「マイナス金利」の導入です。日銀が民間銀行から預かる預金の一部にマイナス金利を適用することで、銀行どうしの短期の貸し借り金利をマイナスに導くことができました。もう1つは「長短金利操作」です。以前から、日銀が短期金利を操作することはかなり思い通りにできましたが、10年のような長期の貸し借りの金利操作は困難とされてきました。しかし日銀は、10年物国債を大量に購入することによって国債価格を引き上げ、長期金利を0%に抑えることにある程度成功してきました。
 しかし、短期の市場に比べて長期の市場は規模が大きく、世界中の金融機関が日本の国債を売買しています。日本の国債価格は高すぎる(金利は低すぎる)と考える人々が、日銀が思うより安い価格(高い金利)で国債を売買するようになり、しばしば金利が0%を上回り始めました。それをみて日本銀行は、無理矢理0%に抑えるのではなく、0.25%までの金利上昇は静観するようになっていました。それでも金利上昇は収まらず10年物国債の金利が12月の決定会合前には0.25%を上回るようになっていました。
 冒頭に紹介した「日銀 異次元緩和を転換」の内容は、10年物国債の金利が0.5%まで上がることを許容するものでした。金利上昇を認めるという意味で「緩和を転換」とみられたのです。ただし、0.5%を超えたら日銀が買い支える(金利を抑える)ことも同時に決めたので、「緩和を転換」したわけではないと黒田総裁は主張しました。ところが、まだまだ国債価格は下がり金利は上がると考える人がむしろ増え、たちまち0.5%を超えるようになりました。日銀が巨額の買い支えをしたにもかかわらず、国債価格は下落し金利は1月初めに0.545%を記録しました。もう買い支えることはできないと日銀が方針転換して、金利上昇が進むかもしれないという見方も、年明けには強まっていました。

 2023年1月18日の決定会合では、緩和を転換して金利を引き上げるような方針は示されませんでした。政策転換を期待していた市場関係者にとっては肩すかしの内容です。でも日銀が際限なく長期国債を買い支え続けることは無理だろうと考える人が多くなっています。
 始まって10年になろうとする「量的質的金融緩和」には、様々な変更が加えられてきました。引くに引かれなくなって次々と無理を重ねてきたようにも感じます。どこかで本当に転換する必要はあるでしょう。けれど急な転換は金融市場を混乱させ経済全体に悪影響を及ぼします。それを避けながらいつどのように転換するのか、おそらく何年も前から日本銀行が抱えている深い悩みです。

*日本銀行の金融政策については、ホームページ https://www.boj.or.jp/ から詳しくみることができます。