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政策学会講演会特集

政策学会講演会(レポート)
『社会起業家とインパクト投資家~国際開発における民間セクターの新たな可能性~』

テーマ 『社会起業家とインパクト投資家〜国際開発における民間セクターの新たな可能性~』
講師 中川 沙和氏
日時 2021年12月14日(火)16:40~18:10
会場 Zoomにて開催

 去る12月14日,政策学会講演会にThreeArrows Impact Partnerの創業者・パートナーである中川沙和氏をお迎えし,「社会起業家とインパクト投資家〜国際開発における民間セクターの新たな可能性~」というタイトルでご講演いただいた。中川氏は,長年にわたり民間セクターへの支援を中心に国際開発に従事され,近年は,社会起業家向けの投資・支援事業の立上げや経営に携わっておられる。今回は,南アフリカやケニアでのご経験から,サブサハラ・アフリカに焦点を当てながら社会起業やインパクト投資の今後の展望や課題などについてお話しいただいた。
 ご講演では,まず社会起業やインパクト投資の定義についてご説明され,近年,世界におけるインパクト投資の運営資産額が著しく増加していることをご指摘された。持続可能な開発目標(SDGs)を達成するためには,民間セクターの協力が不可欠であることからも,社会起業家・インパクト投資家の役割が今後より一層重要になってくることも強調された。その中で, Global Impact Investment Networkが2020年に実施した調査結果からみても,サブサハラ・アフリカの投資先としてのポテンシャルが非常に高いことをご指摘され,特に,ケニアは世界的にみてもインパクト投資家に注目されている「パワーハウス」であるとご説明された。また,ケース・スタディとして,ケニアで設立されたアグリテック企業のTwiga Foodsを挙げられ,この企業が立ち上げたB2B(企業間取引)のEコマースプラットフォームにより,多くの仲介業者が取り除かれ,国内のサプライチェーンが簡素化・効率化されたことで,農家の収穫後の損失の削減や価格の低下による顧客の購買力の上昇,持続可能な雇用創出などといったインパクトが生み出されたことをご指摘された。
 サブサハラ・アフリカにおける今後の課題に関しては,投資家の視点からの問題点として,投資の対象となりうる企業,特にユニークでかつ拡大可能な企業が非常に少ないこと,またアフリカの場合,日本や欧米諸国と比較してIPO(株式公開)や第三者への売却の機会が限られているため,投資のエグジットが困難であることを挙げられた。他方,社会起業家の視点からの問題点としては,審査プロセスが長いことや人材不足などが起因して資金調達に必要な人的資本が限られていること,また資金の行先がごく少数の企業(特に外国人が設立した企業)に限られていることなどを挙げられた。
 最後に,インパクト投資は今後より一層重要になっていくことは確かではあるものの,インパクト投資のみで途上国が直面している全ての課題を解決することは不可能であり,やはり援助国や国際機関,NGO・NPOなどによる支援も必要であることを強調され,ご講演を締めくくられた。講演会では,参加者から講義内容のみならずキャリアに関する質問も数多く出たが,中川氏には一つひとつの質問に丁寧にご解答いただき,大変有意義な講演会となった。

(政策学部教授 新見陽子)

中川 沙和氏