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『政策学会講演会特集』

政策学会講演会(レポート)
『北極をめぐる地政学的競争ーなぜ米国はグリーンランドが必要か』

テーマ 『北極をめぐる地政学的競争ーなぜ米国はグリーンランドが必要か』
講師 大西 富士夫 氏
日時 2026年6月6日(土)10:45~12:15
会場 R204

 2026年6月6日、政策学会講演会に講師として北海道大学北極域研究センター/スラブ・ユーラシア研究センター特任准教授の大西富士夫氏を迎え、「北極をめぐる地政学的競争―なぜ米国はグリーンランドが必要か―」と題する講演をいただいた。本講演では、北極国際政治の変容を軸に、近年のグリーンランドをめぐる米中露の競争構造と、その背景にある安全保障・資源・国際秩序の変化が論じられた。

 まず、北極国際政治は大きく三つの時期に区分できると説明された。冷戦期には、北極は米ソ間の軍事戦略競争の舞台であり、核抑止や潜水艦運用を支える重要地域であった。一方、冷戦終結後の1990年代には、環境保護や持続可能な開発を重視する国際協調が進み、北極評議会を中心とした協力体制が形成された。しかし2000年代後半以降、海氷減少による北極海航路の利用可能性拡大や資源開発への期待を背景に、北極は再び地政学的競争の空間へと変化していった。

 講演では、この地政学化の動きには三つの波があると指摘された。第一の波では、大陸棚延伸や海洋境界、北極海航路の法的地位をめぐる対立など、各国が地政学的利益を追求する動きが強まった。第二の波では、トランプ政権下で米中・米露対立が北極に波及し、特にグリーンランドが戦略的要衝として注目されるようになった。第三の波では、ロシアによるウクライナ侵攻の影響が北極にも及び、北極評議会の機能停滞やNATO拡大、中露連携強化など、安全保障環境の変化が進んでいると説明された。

 グリーンランドについては、その地理的位置と豊富な鉱物資源が大国間競争を加速させていると分析された。中国は2010年代半ばからレアアースや鉄鉱石開発を通じて進出を図ったが、安全保障上の懸念などから計画の多くは停滞している。一方、米国は中国への対抗姿勢を強め、2019年にはトランプ大統領がグリーンランド購入への関心を表明した。その背景には、北大西洋の戦略的要衝であるGIUKギャップの存在や、ロシア・中国との競争激化があるとされた。また、ルイジアナ購入やアラスカ購入に象徴される米国の歴史的成功体験も、トランプ氏の発想に影響を与えていると分析された。

 各国の反応としては、ロシアがNATO内部の亀裂拡大を期待して比較的好意的姿勢を示す一方、中国は国連憲章に基づく対応を主張している。EUは戦略的自立を掲げ、北極での関与を強化している。デンマークはグリーンランドを重要な外交カードとして位置づけており、自治政府への支援を継続している。他方、グリーンランド住民の間では米国帰属への反対世論が強く、近年は抗議活動も活発化しているという。

 講演では最終的に、北極国際政治は協調中心の時代から大国間競争を軸とする時代へ移行しつつあり、その中でグリーンランドが資源、安全保障、国際秩序の交差点として重要性を高めているとの見解が示された。土曜日の開催であったが、国際政治、地域紛争、EU政治に関心を持つ学生が参加し、熱心な質疑が多数出された。

(政策学部教授 月村 太郎)

20260606大西氏      (140039)