政策学会講演会特集
政策学会講演会(レポート)
『アルメニアの選択:カラバフ後の社会と頼るべき相手の模索』
| テーマ | 『アルメニアの選択:カラバフ後の社会と頼るべき相手の模索』 |
|---|---|
| 講師 | 立花 優 氏 |
| 日時 | 2025年12月6日(土)10:45~12:15 |
| 会場 | Z地1 |
12月6日、政策学会講演会に講師としてコーカサス現代政治を研究する北海道大学大学院教育推進機構特任准教授の立花優氏を迎え、「アルメニアの選択:カラバフ後の社会と頼るべき相手の模索」と題する講演をいただいた。
冒頭、ナゴルノ・カラバフ(以下カラバフ)紛争に関し、8月にアメリカのトランプ大統領の仲介で、ホワイトハウスにおいてアルメニアとアゼルバイジャンの首脳が和平の進展に向けた協定に合意したニュースが取り上げられたのち、同紛争の経緯と2020年の紛争再燃、2023年の武力による紛争終結までが説明された。
紛争の原因であった分離主義国家カラバフは、その消滅までアルメニアの支援を受けてきた。しかしこのことは小さな国力しかないアルメニアには非常に重い負担となってきた。講演ではアルメニアとアゼルバイジャンの国力比や、周辺諸国との関係、カラバフ支援の代償としての東西国境閉鎖と地域的孤立、ロシアへの依存が説明された。
こうした情勢の下、アルメニアにおいては、カラバフとの一体防衛を優先する「カラバフ重視路線」と、アルメニア共和国自体の主権、安全、経済発展を最優先し、カラバフ問題での妥協も辞さない「共和国重視路線」が長年対立していた。この路線対立が表面化した事例を挙げながら、アルメニアが地域的孤立と対ロシア依存を深めていく過程が説明された。
しかし2020年の第二次紛争敗北と、2023年のカラバフ喪失を経て、カラバフ重視路線はその物理的根拠を失い、パシニャン政権は共和国重視路線の新形態「リアル・アルメニア」を打ち出すに至った。「カラバフの縛り」が消失したことで、パシニャン政権は対ロシア依存からの脱却と外交的フリーハンドの獲得が模索可能となり、アゼルバイジャンとの間で「相互領土一体性承認」の枠組みに基づく和平協議が進展することで地域的孤立からの脱却を目指している。
こうした外交・安全保障路線の大転換は、アルメニア国内に新たな対立構図を表面化させた。それがアルメニア使徒教会と政府との対立である。アルメニアの民族意識に深い影響を持つ教会は、長年カラバフ重視路線をとる政府から特権的地位を認められてきた。しかしパシニャン政権の国境画定作業やカラバフ放棄姿勢を教会が公然と批判すると、パシニャン政権との間で対立が激化した。最近は聖職者の逮捕・収監が続いている一方、教会トップの辞任要求、特権的地位の縮小が議論されるようになっている。講演の締めくくりでは、今後の問題として、ザンゲズル回廊問題の決着、国境画定、アルメニア共和国憲法改正と議会選挙、路線対立の継続が挙げられた。
土曜日開催であったが、国際政治や紛争に関心を持つ学生が多数参加し、時間いっぱいまで質問が出された。
(政策学部教授 月村 太郎)
