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政策学会講演会特集

政策学会講演会(レポート)
『途上国の産業発展に向けて』

テーマ 『途上国の産業発展に向けて』
講師 樋口 裕城 氏 
日時 2024年6月4日(火)16:40~18:10
会場 R301

 去る6月4日,政策学会講演会に上智大学経済学部准教授の樋口裕城先生をお迎えし,「途上国の産業発展に向けて」というテーマでお話しいただいた。樋口先生は,開発経済学をご専門とされ,これまでに日本式カイゼン経営などの経済効果やロヒンギャ難民などに関する実証研究を積み重ねてこられた。今回は,国際協力機構(JICA)のカイゼン支援などをご紹介いただきながら,カイゼン経営の導入が企業の業績に与える影響などについてお話しいただいた。
 ご講演では,まず開発経済学の変遷についてご説明され,近年,ミクロデータを用いた因果推論の活用が盛んになっていることをご指摘された。特にランダム化比較試験(RCT: Randomized Controlled Trial)と呼ばれる社会実験によって,援助プロジェクトの効果がこれまでよりも正確に測定されるようになり,より具体的な政策提言が可能になったことを強調された。その上で,お話を国の産業発展に移され,途上国では未だ多くの人々が農村で暮らし,農業で生計を立てていることから,農業の生産性を向上させることは重要ではあるものの,農業の雇用創出力は限定的であり,生産性向上の余地にも限りがあることから,経済を持続的に成長させるためには,産業の発展が不可欠であることをご説明された。ただし,産業発展においては企業の成長が重要ではあるが,途上国の企業の大半が中小零細企業であり,適切な経営がなされていないケースが少なくないことをご指摘された。
 ご講演の後半では,戦後,日本の生産現場で開発された品質・生産性向上のための手法である「カイゼン」についてご説明され,「カイゼン」は経営陣と従業員の協働によるボトムアップのアプローチであることを強調された。JICAは,1980年代からシンガポールを皮切りに,品質・生産性向上に向けたカイゼン支援を行っており,樋口先生はベトナムとタンザニアにおけるカイゼン経営に関する研修の効果を測定された。RCTの手法を用いた分析結果によれば,どちらの国においてもカイゼン・トレーニングを受けた企業の業績が向上し,ベトナムにおいては,中期的なイノベーションへの取組みも見られたことをご紹介された。
 最後に,近年,経済学者と実務家の協働が増えつつあり,RCTなどを使った分析がより適切な援助政策の設計に貢献していることを強調され,ご講演を締めくくられた。参加者からは様々な質問が出され,大変有意義な講演会となった。

(政策学部教授 新見 陽子)

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