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政策学会講演会特集

政策学会講演会(レポート)
『緊急事態宣言への道』

テーマ 『緊急事態宣言への道』
講師 石橋 英宣 氏
日時 2024年6月3日(月)14:55~16:25
会場 R204

 去る6月3日(月)に、政策学会講演会の講師として、内閣府経済財政分析海外担当参事官の石橋英宣氏に御来校頂き、「緊急事態宣言への道-不確実な時代を生き延びるための知恵」と題してご講演を賜った。石橋氏はコロナ禍初期に大臣官房として新型コロナ感染症対応に従事され、第1回目の緊急事態宣言が解除され、第一波の流行が治まったタイミングでその立場から離れられた。その1年後のアルファ株、ベータ株流行期にも内閣官房コロナ室にてAIシミュレーション事業、行動規制緩和事業等のコロナ対応をご経験された。そのご経験をもとに、コロナ危機、特に初期の出来事やその対応を中心的に振り返りながら、そこから得られる教訓をまとめ、次回の危機への備えの準備を形作るという流れでお話をされた。
 まず、新型インフルエンザ特措法や緊急事態宣言が人々の行動にどこまで制限をかけられるものなのかの解説からご講演は始まった。日本では強い行動制限がかけられない法律の立て付けとなっており、その制約の下に政府は感染症対応に臨まねばならないことが大きな前提条件であった。次に、コロナ禍初期の出来事を時系列順に詳細にサーベイされ、その都度の政府内部における雰囲気や、何が中心的な問題と捉えられていたか等の振り返りがなされた。この時期の特徴としては、新型コロナ感染症について多くのことが分かっていない手探りの中で、死亡率の高さ等から高い緊張感で政策のかじ取りがされていた様子を具体的なエピソードを交えながら分かりやすくお伝え下さった。その上で緊急事態宣言が発令された経緯や発令の理由について、当時の感染状況の特徴、新型コロナウイルスについて当時知りえたエビデンス、物資の需給ひっ迫状況の3つの点に整理されてお話し下さった。更に緊急事態宣言の効果や副作用として、どのような影響が人々の活動に及ぼされたのかを感染者数と人流のデータに基づいて解説された。前述したように日本では強い行動制限がかけられず、人々の自主性に多くを委ねることになる。その結果、第1回目の緊急事態宣言においては大きな人流抑制効果が働いたものの、宣言の発令が繰り返されるごとにその影響力は低下していくことがデータからも確認されるとのことであった。
 最後に政策対応について総括され、今後について、専門家や有識者の見解を取り上げられながらまとめをされた。専門家によれば、人獣共通感染症が今後もパンデミックを引き起こすことは疑いがない。政府は2024年4月24日付けて「新型インフルエンザ等対策政府行動計画」の改定を行った。コロナ禍に明らかとなった課題やその振り返りを踏まえ、幅広い感染症危機に対応できる社会を目指すことが目的である。講演の締めくくりとして、その改定案の骨子について、講義の中で話された感染症対応のご経験やエピソードに巧みに絡めながら、平易なご解説頂いた。経験を振り返り、課題を抽出し、教訓を踏まえて、政策として形にする。政策現場の営みや政策形成の過程を直に目にすることが出来る大変貴重なご講演であった。

(政策学部教授 川上 敏和)

20240603石橋氏  (102092)