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政策学会講演会特集

政策学会講演会(レポート)
『国際開発のイノベーションにおけるインパクト投資の役割』

テーマ 『国際開発のイノベーションにおけるインパクト投資の役割』
講師 伊藤 健 氏
日時 2023年10月31日(火)16:40~18:10
会場 Z31

 去る10月31日,政策学会講演会に慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科特任准教授の伊藤健氏をお迎えし,「国際開発のイノベーションにおけるインパクト投資の役割」というテーマでお話しいただいた。伊藤氏は,特定非営利活動法人ソーシャル・バリュー・ジャパンの代表理事も務めておられ,長年,日本における社会的インパクト評価やソーシャルインパクトボンド,社会的投資などの普及促進に尽力してこられた。今回は,国際開発におけるインパクト投資に焦点をあて,世界各国での事例をご紹介いただきながら,インパクト投資の現状や今後の課題などについてお話しいただいた。
 ご講演では,まずインドやタンザニア,マレーシアなどで展開しているインパクトビジネスの事例を紹介され,医療や教育,電力供給など,本来であれば行政が主管する公的な領域においても市場ベースで革新的な事業を推進することが可能であることを示された。特に,行政では対応が困難な社会課題を,インパクトビジネスはユニークなビジネスモデルや技術を活用することによって効果的・効率的に解決できることを示していると強調された。このようなインパクトビジネスを後押しするのがインパクト投資であり, ESG投資とは異なり,インパクト投資とは,社会課題解決を主たる目的とした,測定可能な社会的インパクトを生み出す案件への投資であると説明された。
 ご講演の後半では,インパクト投資の拡大に向けた様々な取組みをご紹介いただいた。例えば,社会的インパクトの評価手法に関しては,これまで異なるアプローチが混在していたが,2010年代後半からは,国際機関や民間ネットワークの間での相互連携が進み,評価方法における合意形成が図られているとのことであった。また,東南アジア諸国における事例を挙げられながら,インパクト投資の拡大に向けて,各国政府や援助機関が,資金提供のみならず社会的企業に関する制度作りや起業支援などといった取組みも行っていると説明された。今後インパクト投資を継続的に拡大させていくためには,多岐に渡るステークホルダーを巻き込んだインパクト・エコシステムの構築が不可欠であることも指摘された。
 最後に,インパクト投資の創始者であるロナルド・コーエン卿の言葉を用いて,インパクトビジネスやインパクト投資は,資本主義のパラダイム・シフトの予兆であり,市場に「見えざる心(invisible heart)」を導入させ,金銭的リターンとインパクトの両方を追求することを原動力とする新しい経済システム,インパクト資本主義が生まれつつあることを強調され,ご講演を締めくくられた。

(政策学部教授 新見 陽子)

伊藤 健 氏