政策学会講演会特集
政策学会講演会(レポート)
『気候変動への適応と課題』
テーマ | 『気候変動への適応と課題』 |
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講師 | 内田真輔氏 |
日時 | 2023年6月27日(火)16:40~18:10 |
会場 | Z30 |
去る6月27日,政策学会講演会に名古屋市立大学大学院経済学研究科の内田真輔教授をお迎えし,「気候変動への適応と課題」というタイトルのもとでご講演いただいた。内田教授は環境経済学をご専門とされ,これまでに気候変動や自然災害など,様々な環境問題に関する実証研究を積み重ねてこられた。今回は,気候変動への適応策に焦点をあて,最新の研究をご紹介いただきながら,適応策を考える上で考慮すべき点や適応行動の障害となりうる課題などについてお話しいただいた。
ご講演では,まず世界の平均気温の推移や近年の温暖化の原因、また温暖化が社会・経済に及ぼす様々な影響について解説された。そのような影響への対応としては,気候変動の原因となっている温室効果ガスの排出を削減し,気候変動を極力抑制する「緩和策」に加え,緩和策を最大限実施しても避けられない気候変動の影響に対し,その被害を軽減し,より良い生活を送るための「適応策」の2本柱で取り組む必要性を強調された。ただし,緩和策と比べ,適応策が発展してきたのは比較的最近であることからも,適応行動のメカニズムや適応策の効果に関する分析は十分になされておらず,更なる知見の蓄積が不可欠であることをご指摘された。
ご講演の後半では,適応策を考える上で考慮すべき点について話された。まず1点目として「多様性」を挙げられ,気候変動の影響は地域や産業によって異なることから,各地域・産業の特徴に見合った適応策を実施する必要があることを強調された。2点目としては,「適応(能力)格差」を挙げられた。国や企業,個人は,通常,適応の費用と便益とを比較し,適応する・しないを決定するが,予算制約や技術制約などといった適応行動を阻害する要因が障壁となり,最適な適応行動をとることができない場合があることをご指摘された。特に,低所得国や貧困層など,予算制約によって適応能力が限られる場合,猛暑や自然災害などの外的影響に対して脆弱になり,負の影響がより大きくなる恐れがある。これに対し,先進国や富裕層は,気温上昇による影響から身を守るための技術などに投資することで,温暖化の影響を回避できる可能性が高い。その結果,貧しい国・地域ほど,気候変動による経済への負の影響が大きくなり,豊かな国・地域との経済格差が拡大してしまう恐れがある。
最後に,内田教授は,適応策の効果や適応行動の阻害要因などに関する知見を今後更に蓄積し,適応策に反映させていくことで,気候変動への適応格差を是正し,適応格差が更なる格差を生み出す負の連鎖を断ち切る必要があることを強調され,ご講演を締めくくられた。
(政策学部教授 新見 陽子)