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金融経済教育とIPO
投稿者 足立 光生:2026年10月
はじめに、個人的な話で恐縮であるが、大学の教員になって四半世紀が過ぎた。異なる職業でキャリアを開始した私にとって、この年月は感慨深いものがある。また、この間、研究だけでなく教育、とりわけ金融経済教育にも邁進する事ができた。これについては周囲の方々に感謝してもしきれない。
大学ではこれまで様々な講義を担当させていただいた。その一つにスタートアップ企業(ベンチャー企業)に関する講義がある。こうした講義では、スタートアップ企業を取り巻く様々なシーンに加えて「スタートアップ企業がどのようにファイナンス(資金調達)をおこなうか」の解説は避けて通れない。
スタートアップ企業のファイナンスは、その成長段階にあわせて様々であるが、企業がある程度成長した際にはビッグイベントが待ちかまえている。それがIPO(Initial Public Offering:新規株式公開)である。もちろんすべてのスタートアップ企業がIPOを目指す訳ではない。ただし、IPOほど多様な立場の人々を巻き込むイベントはそうそうない。
そこで、IPOについて「資金を調達する立場」から「資金を提供する立場」に視点を転換して、すなわち投資家の視点で眺めてみたい(ちなみに、私が近年展開してきた金融経済教育では、上述の二つの立場を表裏一体とするアプローチをとってきた。詳しくは足立[2021]を参照いただきたい)。
IPO にとりわけ投資家が関心を寄せがちなテーマとしては、公開価格と上場後の初値との乖離が挙げられる。公開価格より初値が上回るアンダープライシング(もちろん必ずしもそうなるとは限らない)はしばしば市場の話題となっていく。ただし、上場以降の株価の足取りについては継続して報道されていく事は稀であった。
そうしたなか、今年2026年6月に上場したスペースX(Space Exploration Technologies Corp.)については極めて異彩を放った。イーロンマスク(Elon Musk)という誰もが知っている経営者が考案した新しい企業、しかも宇宙を舞台にした新しいビジネスモデルとなれば、注目が集まるのは当然であろう。スペースXは、IPO直後の株価だけでなく、その後の株価の足取りまで克明に報道されていく事になった。(ちなみに原稿執筆時点では回復してきているものの)スペースXの株価はIPO以降に低迷を続けていく事になり、こうしたIPO以降のアンダーパフォーマンス(これに関しても、もちろん必ずしもそうなるとは限らない)もリアルタイムで目の当たりにする事となった。われわれはまさにIPOの生きた教科書を開いたといえよう。
もちろん「スペースXのIPOと普通のスタートアップ企業のIPOとでは、規模が違うので参考にはならない」という声も聞こえてくる。でも、本当にそうだろうか。われわれは規模だけに目をとられてしまい、規模の大きなものと小さなものが本質的に同じ構造をしている事をしばしば忘れがちである。株式会社も然りである。様々な情報が最終的には株価として集約される事は、規模の大小を問わず共通である。その事をいま一度思い返すべきであろう。
米国では大型のIPOが今後も続く可能性がある。より多くの方々が金融経済について考える機会がさらに増えていく事を望んでいる。
足立光生[2021]『先輩! ビジネスセンスの磨き方を教えてください! 起業からイメージする金融経済教育』中央経済社