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政策最新キーワード『環境保全とウェルビーイングについて』
環境保全とウェルビーイングについて

投稿者 中島 恵理:2026年5月
1.はじめに
近年“ウェルビーイング”という表現が様々な分野で用いられるようになっているところ、2024年5月に閣議決定された「第六次環境基本計画」では、環境政策の最上位の目的として、ウェルビーイングの実現を目的に据えた。以下、国際的な研究論文も引用しながら自然環境保全は、私たちの幸福を実現するための積極的な営みであることを紹介する。
2.ウェルビーイングとは?
ウェルビーイング(well-being)とは、身体的・精神的・社会的に良好な状態を包括的に指す概念である。世界保健機関(WHO)は健康を「単に病気がない状態ではなく、身体的・精神的・社会的に完全に良好な状態」と定義しており、ウェルビーイングはこの考え方を更に広げたものである。
ウェルビーイングの構成要素は多層的であり、快楽的側面(ヘドニック)と充実・意味的側面(ユーダイモニック)の双方が含まれる。環境との関係では、自然との接触、清潔な空気・水・土壌の享受、生態系サービスの恩恵など、いずれも非市場的価値として人々のウェルビーイングを構成する重要な要因とされている。
3.自然環境とウェルビーイング
自然環境への接触とウェルビーイングの関連を大規模に実証した研究として、英国エクセター大学のホワイトらによるイングランドの約2万人を対象とした大規模横断研究がある。本研究では週に少なくとも120分間自然の中で過ごした人々は、自然に全く接しなかった人々と比較して、健康状態が良好であると報告している(White et al., 2019,)。スタンフォード大学のブラットマンらは、自然体験がメンタルヘルスに与える神経科学的メカニズムを解明した。自然環境での90分の歩行は、反芻思考(うつ病リスクと関連する自己否定的な思考パターン)の頻度を低下させ、うつ病に関連する脳領域である前頭前皮質(sgPFC)の神経活動を有意に減少させ、一方都市環境での歩行ではこのような変化は見られなかった(Bratman et al., 2015, )という。
自然がウェルビーイングを高めるメカニズムについての心理学理論として、ウルリッチ(1981)による「ストレス回復理論(SRT)」とカプランら(1989)による「注意回復理論(ART)」がある。SRTは自然環境が生理的リラクゼーションを誘発すると説き、ARTは自然の刺激が注意機能を回復させると論じる。神経科学的研究も両理論を支持しており、都市の緑地は公衆衛生上の重要インフラと位置づけられる。
このように、環境保全とウェルビーイングの関係は、神経科学・疫学・政策科学にまたがる学際的な実証研究によって裏付けられつつある。自然環境を守り豊かにすることが、現在および将来の国民一人一人の「真の豊かさ」——ウェルビーイング——の土台となるといえよう。
【参考文献】
Bratman, G.N., Hamilton, J.P., Hahn, K.S., Daily, G.C., & Gross, J.J. (2015) Nature experience reduces rumination and subgenual prefrontal cortex activation. PNAS, 112(28), 8567–8572.
Kaplan, R., & Kaplan, S. (1989) The Experience of Nature: A Psychological Perspective. Cambridge University Press
Ulrich, R. S. (1981). Natural versus urban scenes: Some psychophysiological effects. Environment and Behavior, Vol. 13(5), pp. 523–56
White, M.P., Alcock, I., Grellier, J., et al. (2019). Spending at least 120 minutes a week in nature is associated with good health and wellbeing. Scientific Reports, 9, 7730.
環境省(2024)第六次環境基本計画(令和6年5月21日閣議決定)https://www.env.go.jp/press/press_03210.html