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政策最新キーワード『AI時代における就職活動・採用プロセスの変容』
AI時代における就職活動・採用プロセスの変容
投稿者 柿本 昭人:2026年3月
日本の就職活動および採用プロセスは、この5年間で生成AI技術の急速な普及を背景として大きく変わった。今回は主要報道を基礎資料として、企業・学生・大学の三者におけるAI活用の実態と、その過程で顕在化した課題を整理し、AI時代の就職活動の構造的特徴を示す。そのうえで、報道で語られていない点を最後に触れる。
1 企業の採用活動におけるAI活用の進展
企業におけるAI導入は、2023年以降、応募者数の増加や評価の属人性への懸念を背景に急速に拡大した。2025年には、大手企業が一次面接にAI面接官を導入し、評価項目の標準化と効率化を図ったと報じられている¹。また、録画映像を基に30項目以上を評価するなどのAI面接サービスが広がっている²。一方で、生成AIの普及に伴いESの内容が均質化し、企業側が応募者の個性を把握しにくくなるという問題が顕在化した。ロート製薬は2027年卒採用からESを廃止し、15分間の対話選考へ移行したが、その理由として「生成AIによる文章の画一化」を挙げている³。総合商社でもAI面接を本選考に導入し、書類では把握困難な人柄の評価を試みている4。
2 学生の就職活動におけるAI利用の拡大
学生のAI利用率は急増し、2026年卒では66.6%に達したとされる⁵。利用目的の中心はES作成・推敲であり、ChatGPTを用いた志望動機や「ガクチカ」の生成が一般化した⁶。また、短時間でガクチカが自動生成されるサービスも登場した⁷。AIを用いた面接対策も普及している⁸。しかし、留学生がAI翻訳を丸暗記して面接に臨み、不自然な回答が原因で不合格となる事例も報告されており、AI依存のリスクが指摘されている9。
3 大学の就職支援におけるAI導入の本格化
就職活動の早期化と学生の準備不足を背景に、大学もAIを活用した支援体制を整備してきた。ある大学は、AIによるガクチカ作成や面接練習を授業として導入し、学生のキャリア形成支援を強化した。別の大学はAI面接練習システムが導入し、31項目の能力評価と改善点の提示を学生に提供する。同様にES添削AIを独自開発し、相談件数の増加に対応した大学もある10。他方で、キャリアセンター職員からは、学生がAIに「正解」を求め、自ら思考する機会が減少しているとの懸念が示されている11。
4 AI利用がもたらした構造的課題
AIの普及は利便性を高めるが、複数の構造的課題を生じさせている。既に述べたように、第一の課題は、生成AIによるESの均質化である。文章の整合性は高まるものの、応募者の個性や価値観が把握しにくくなる点が問題となっている。第二に、AI評価を意識した「最適化された回答」の増加である。学生がAIに高評価される回答を模索することで、入社後のミスマッチを生む可能性が高まっている12。第三に、AIが過去データを学習する特性から、既存の偏りを強化する危険性がある。AIはあくまで補助的役割にとどめ、最終判断は人間が担うべきだと指摘されている13。第四に、替え玉受検の横行に伴い、AI監視技術が普及するなど、不正対策の強化が必要となる14。第五に、高性能AIを利用できる学生とそうでない学生の間で準備格差が生じる可能性がある15。
5 語られざる課題
この5年間で、AIは就職活動および採用プロセスにおいて「補助ツール」から「前提条件」へと位置づけを変えた。企業は効率化と公平性の確保を目的にAIを導入した。学生はAIを活用しなければ競争環境に対応できない状況に置かれた。そして、大学はAIリテラシー教育を担う主体へと変化した。同時に、文章の均質化、価値観の不透明化、バイアス、格差などの課題も顕在化している。これに対して、AIを適切に活用しつつ、自らの価値観を自らの言葉で表現する能力が求められており、これは企業・学生・大学の三者に共通する新たな課題であると指摘されている。
この指摘に誤りなどない。人材の多様性確保の論点はひとまず脇に置くとしても、当のAIが動く前提への問いかけは十分なのだろうか。報道では導入の話題はあっても、導入されたAIによって求める人物像に合致する人材の確保は実現しているのか。AIが確率を前提とするなら、ゴールと現実との落差を埋めていくアルゴリズムの見直しというフィードバックをどう行っているのか。人柄や価値観といった測れないものを測るための代理データの妥当性が検証されているのか。そもそも統計的に有意な確率を導くサンプルの質と量はどのように確保されてきたのか。問われていないこれらの課題の結果を私たちは引き受けることになるが、その覚悟はできているか。
註
1. 「採用にAI活用3割 人事担当者の負担軽減」『日本経済新聞』2025年12月5日。
2. 「AI面接官、判断シビア ROXX提供、導入広がる」『日本経済新聞』(夕刊)2025年8月18日。
3. 「エントリーシートはAI頼み? 新卒採用 ロートなど対面式に転換」『日本経済新聞』2025年12月23日「ロート製薬、ES廃止の理由」『週刊アエラ』2026年2月16日号、26頁。
4. 「総合商社、悩む採用選考 1社に応募6000人超、AI面接導入も」『日本経済新聞』(夕刊)2026年3月4日。
5. 「就活生「AI利用」66%、ES推敲最多、マイナビ調べ」『日経MJ(流通新聞)』2025年5月30日。
6. 「就活に生成AI 効果的に 文章添削、面接…お助け」『日本経済新聞』(夕刊)2023年12月21日。
7. 「「ガクチカ」、AIが5分で生成」『日経MJ(流通新聞)』2024年4月5日。「就活AI VS. 採用AI ガクチカ6問で生成/コピペ見破り 24時間働く面接官「人より公平」?」『日経MJ(流通新聞)』2024年7月19日。「ルール無用、令和の 就活(2)AIなしでは戦えない」『日本経済新聞』2025年2月26日。
8. 「27年卒就活、AIで支援 進む早期化、内定率5割に迫る 金沢工業大、社会人像描く 中央大、面接の対策に」『日本経済新聞』2026年2月11日。
9. 「「就活は対面で」不変 練習アプリ増 受け身懸念も」『読売新聞』2025年6月10日。
10. 前出『日本経済新聞』2026年2月11日。
11. 前出『読売新聞』2025年6月10日。
12. 「AI活用し学生がつく噓 原因は採用する側に 曽和利光(就活考)」『日本経済新聞』(夕刊)2025年10月20日。
13. 「AI活用した採用 賢い補佐役、最終責任は人 曽和利光(就活考)」『日本経済新聞』(夕刊)2025年9月22日。
14. 「就活「替え玉受検」どう防ぐ、ウェブテスト不正、抵抗感薄く AIで監視も、啓発が急務」『日本経済新聞』2023年4月3日。
15. 前出『読売新聞』2025年6月10日。