このページの本文へ移動
ページの先頭です
以下、ナビゲーションになります
以下、本文になります

政策最新キーワード『5歳児健診』

5歳児健診

2025田中宏先生 (110092)

投稿者 田中 宏樹:2025年11月4日


 子どもの健やかな成長にとって、心身の健康の維持・増進は、欠かせない要素である。日々の健康観察は、保護者の手に委ねられるものの、保健師を介した行政(市町村)による法定健診(対象は1歳6カ月児と3歳児)が実施されているのは、子どもの健全な育ちを担保するためである。昨今、小学校入学前の未就学児を対象に、健診の対象を5歳児にまで拡大しようとする動きが生じており、国も令和5年度補正予算において、市町村による5歳児健診の実施を促すべく、財政面での支援に乗り出した。では、5歳児健診になぜ衆目が集まるのか-以下、その理由と普及に向けたハードルについて、簡潔に述べていこう。
 子ども家庭庁の公表資料によると、5歳児健診の目的は「言語理解や社会性が発達し、発達障害が認知される時期にある5歳児に対し、健康診査を実施」することで、「子どもの特性を早期に発見し、適切な支援を行うとともに、生活習慣や育児に関する指導も行い、健康の保持・増進を図る」とされている((「母子保健医療対策総合支援事業(令和5年度補正予算分)実施要綱」より筆者抜粋)。平たくいえば、5歳児健診とは、子どもの発達特性が表出しやすくなる5歳時点で、子どもの個々の特性を把握し、必要に応じて就学前に適切な支援・配慮のあり方を、就学先と相談できる体制を整えることで、発育・発達をめぐる保護者の不安を和らげることを意図したものだといえる。
 小学校入学後に、発達特性に応じた学びの機会を担保するため、現状、特別支援学級や通級指導教室等の受け皿が用意されているものの、その数は年々増加の一途を遂げており、就学前から発達特性の有無を早期にスクリーニングし、就学前後にまたがる切れ目のない支援につなげることの重要性は高まっている。10年前と比べ、小学校低学年の不登校が7倍に増加している実態が文部科学省の最近の調査で明らかとなったが、不登校児童生徒の57%が何らかの発達特性上の問題を抱えていたとする研究も報告されており(鈴木他(2017))、発達特性の早期発見・早期支援によって、就学後に顕在化・重大化する2次障害のリスクを軽減する観点からも、5歳児健診によるスクリーニングを踏まえた就学前後での発達支援に、社会的な期待が寄せられていると考えられるのである。
 発達特性の早期発見・早期支援に有効とみなせる5歳児健診だが、実施の市町村は令和4年度時点で14.1%にとどまっている。全国的な広がりを欠く理由の解明は、深堀りした調査の実施をまたなければならないが、実効性ある普及には、以下2点のハードルをクリアすることが重要であると考えられる。
 第1に、発達特性を正確かつ迅速に検証・診断できる健診手法の開発である。発達特性の診断ツールの1つとして、一般的に用いられるWISC(ウェクスラー式知能検査)は、精度の高い検証・診断が可能な反面、実施に2時間程度を要するため、医療従事者と患者双方の負担が重い。相当数の未就学児を対象に5歳児健診を実施するためには、保健師や医師が発達特性を一定の精度を維持しつつ、より迅速に検証・診断していくツールの普及・活用が必須といえる(市販されている民間の診断キットのうち、WISCの診断結果と高い相関をもつ、短時間での実施が可能なツールがいくつか開発されているのは朗報といえる)。
 第2に、スクリーニングの結果を踏まえ、適切な発達支援に結びつけていくために、個々の子どもの発達特性をめぐるデータの共有・連携の基盤整備が不可欠である。子ども家庭庁の発足により、自治体において、児童福祉と母子保健の組織上の一体化が進み始めているが、依然、両者が縦割り構造のもと、独立・分断している自治体も少なくない。加えて、教育委員会との協働となると、さらに実施事例は限られてしまう。公務員として、個人情報の取り扱いをめぐる守秘義務が課せられる(情報漏洩に対し、地方公務員法上の罰則規定がある)ため、慎重を期すべき点はあるが、子どもの成育をめぐる就学前後の情報共有を円滑化すべく、データの共有・連携の基盤作りが欠かせない。
 データインフォームドな健診実施とデータ連携基盤の構築による適切な発達支援の実行を伴った5歳児健診の普及は、「こどもまんなか」を掲げる昨今の政策理念・政策意図を具現化するための試金石の1つと位置づけられよう。

<参考文献>
鈴木菜生・岡山亜貴恵・大日向純子・佐々木彰・松本直也・黒田真実・荒木章子・高橋悟・東寛(2017)「不登校と発達障害-不登校児の背景と転帰に関する検討」『脳と発達』49(4)、255-259.