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良い政策とは? 政策を評価する3つのポイント
投稿者 山谷 清志:2023年11月1日
「良い政策」。それはどんな政策でしょう。政策学部では、この問いを考えながら4年間学びますが、良い、悪いが人それぞれ違うので、悩みます。でも、ようやく最近、最低限、これが必要と思える3つの条件が登場し、政府各府省が政策を評価し、国民に説明する場面で使っています。各府省の政策評価と予算要求時に行う行政事業レビュー、外務省のODA評価などです。もちろん、この3条件は外国の研究や国際社会の実務でも合意されています。ここでは簡単にその3つを紹介しましょう。
まず第1は、政策の「システム」です。政策がシステマチックに整理されているかどうかです。この三層からなる体系構造の中で政策を説明できれば良い政策、という評価ポイントです。たとえば道路建設プロジェクトは道路を作るのが政策目的ではなく、上位の地域振興政策の中で、地域の経済活動の円滑化や居住環境の安全を目指して展開されるのですが(これがプログラム)、その結果として観光や住民生活の便利が向上すれば都市交通政策は合格点をもらえるでしょう。システム全体の中でプロジェクトがどのように組み立てられているのかが重要なのです。「木を見て森を見ず」、にならないように政策を考えるのは大事です。
次に重要な、良い政策の条件は「デザイン」です。 政策目標が決まっているとき、その目標をどんな手段で達成するのかが議論され、適切な手段群が選択されるはずです。「蚊を退治するのに機関銃は使わない」。1980年頃、アメリカの政策学教科書に書かれていたジョークです。先のシステムの話と関連させると、地域交通の整備手段は、道路だけでなく、鉄道や自転車という手段もあります。クルマの渋滞緩和のため時差出勤を宣伝する広告PRを出すこともあります。極端な手段としては、「クルマに乗らない」手段もあります。病気の人・高齢者・障がい者・こどもを大事に考えれば、マイカー通勤優先を前提に考える政策はおかしいです。デザインが悪い政策は、成果が出ないまま、無駄に予算を使い続けるでしょう。もちろん、住民は迷惑します。
良い政策の条件の第3は、「ロジックが正しい」政策です。問題を正しく確認し、その対策の政策を決定し、実施する。このプロセスが目標達成、成果に結びつくようにロジカルに作られている政策です。成果が出ないときには、問題解決のデザインが正しかったのか、システムに不整合があったのではないか、政策実施の現場にどんな問題があったのかをみんなで考えます。予算が足りなかった、現場で働く人の専門スキルが不足した、無理なスケジュールだった、それほど大きな被害が出るとは想像していなかったなど、言い訳はたくさんあります。しかし、プロセスのロジックに欠点がある政策は少なくありません。想定外のインパクト、マイナスの影響なども考えるべきでしょう。
日本政府は2001年に政策を評価する法律を作りました。この時、公共事業事前評価、政府開発援助(ODA)評価も参考にしています。国際社会で行われているプロジェクト評価、プログラム評価でした。その後2012年頃からは政策評価と予算要求に使う行政事業レビューを組み合わせて、政策を毎年見直しています。見直しの時にはシステム、デザイン、ロジックの3点を中心に、各府省の政策担当者に説明を求めます。私のこれまでの経験から、政府の説明能力(アカウンタビリティ)を考える特に役に立つ、興味深い政策実例を示します。みなさんもネットなどで確認してください。
- 核燃料サイクル交付金(資源エネルギー庁・令和2年度の予算額 7.9億円)。1988年から建設がはじまったが、稼働していない。⇒ロジックとデザイン。
- 沖縄科学技術大学院予算(令和6年度要求額222億円は沖縄振興予算2920億円から支出予定)。⇒沖縄振興目的と大学院の存在とのデザイン整合性。
- ALPS処理水海洋放出に伴う漁業者支援事業(資源エネルギー庁・基金500億円)。⇒放出決定前に基金を用意していた「周到さ」。
- 1995年から円借款「デリー・メトロ建設事業」。⇒成果とその国際的インパクト。