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ネイチャーポジティブ
投稿者 中島 恵理:2023年10月1日
カーボンニュートラル、サーキュラーエコノミーに続く環境に係る世界の潮流のキーワードになりつつあるのが「ネイチャーポジティブ」だ。
私たちを取り巻く自然環境は危機的状況にある。
世界経済フォーラム(2020)によれば、人間の経済社会活動は生物多様性に依存しており、その価値は世界のGDPの半分にあたる年間約44兆ドルの経済価値に相当すると指摘している。
そのような中、2021年6月G7サミット(英国)で採択された「2030年自然協約」で 「2030 年までに生物多様性の損失を止め、反転させる」という世界的な使命が確認された。 自然協約では、この使命を果たすため、今後10年間で以下の4つの柱にまたがる行動をとることとした。
表 2030年自然協約の4つの柱
- (1)移行=自然資源の持続可能かつ合法的な利用への移行を主導すること
- (2)投資=自然に投資し、ネイチャーポジティブな経済を促進すること
- (3)保全=野心的な世界目標等を通じたものを含め、自然を保護、保全、回復させること
- (4)説明責任=自然に対する説明責任及びコミットメントの実施を優先すること
(出典)環境省(2023)「ネイチャーポジティブ経済の実現に向けて」
2022年12月に生物多様性に係る国際的枠組みである生物多様性条約の第15回締約国会議(COP15)で「昆明・モントリオール生物多様性枠組」(以下「新枠組」という。)が採択された。この新枠組に2030年までのミッションとして取り入れられたのが「ネイチャーポジティブ」(自然再興)の考え方だ。
「ネイチャーポジティブ」とは、生物多様性の損失を止めることから一歩前進させ、損失を止めるだけではなく回復に転じさせる考え方である。
ネイチャーポジティブの達成のためには、以下の図のとおり、自然環境の保全と回復だけでなく、ゼロカーボンやサーキュラーエコノミーの取組が必要だ。というのも、たとえば急速に進みつつある温暖化などの気候変動は、生態系の対応が追い付かず、生物多様性が損なわれる可能性が高い。大量生産、大量廃棄型の経済社会システムは、天然資源の採掘により自然環境に破壊につながりかねない。このようにネイチャーポジティブの実現のためには、気候変動対策や循環経済への以降の取組を一体的に進めていく必要がある。
(出典)地球規模生物多様性概況第5版GBO5 (生物多様性条約事務局2020年9月)
また、新枠組では2030年までに陸と海の国土の30%を保全するという「30by30目標」が主要な目標の一つに位置付けられた。日本は、「30by30ロードマップ」を2022年4月に公表するとともに、取組をオールジャパンで進めるため、有志の企業、地方公共団体、NPO等で構成される「生物多様性のための30by30アライアンス」を発足している。
30by30目標を達成するためには国立公園等の保護地域の拡充とともに、民間団体と連携して保護地域以外で生物多様性の保全に資する地域(Other Effective area-based Conservation Measures、以下「OECM」という。)を設定していくことが重要だ。環境省では、民間の取組等によって生物多様性の保全が図られている区域を「自然共生サイト」として認定する仕組みを2023年度から開始し、100以上のサイトの認定を目指している。
(参考文献)
World Economic Forum(2020) “Nature Risk Rising: Why the Crisis Engulfing Nature Matters for Business and the Economy “p.8