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インフラ型組織
投稿者 太田 肇:2023年9月1日
「組織」といえば立派な建物や、大勢の人が顔をつきあわせて働いている姿を思い浮かべる人が多いかもしれない。あるいは命令に対する絶対服従といった厳しい上下関係をイメージする人もいるだろう。しかし近年、IT系の企業やベンチャー企業のなかには、フラットで管理がゆるく、内と外の境界がはっきりしない組織が増えてきた。さらにコロナ禍でテレワークが広がってからは、どこに組織があるかさえ見えにくくなっている。組織のスタイルが昔とは大きく様変わりしているのだ。
組織論の世界では、伝統的に「機械的組織」と「有機的組織」という2種類の組織が対比された。前者は権限の序列が明確で、制度やルールによって運営される文字どおり機械のような組織であり、後者は有機体、すなわち動物や植物のように柔軟でメンバーの相互作用により運営される組織である。いずれも組織の輪郭がはっきりしていて、個人は組織の一員として行動する。いっぽう上述したような組織は、個人が主体となって活動する。「組織は仕事や活動をする場」というイメージであり、たとえていうなら芸能人が演技をする舞台のようなものだ。道路や水道、電気、公共施設といったインフラストラクチャーのような役割を果たす組織なので、「インフラ型組織」と呼ぶことにしている。
図は機械的組織、有機的組織、インフラ型組織を比較したイメージ図である。
かつて大企業の社員を対象に調査を行った結果、専門職はインフラ型組織を強く指向する傾向があることが明らかになった。また学生に対して将来、3タイプのうちどの組織で働きたいか聞いたところ、「インフラ型組織」が54%と過半数を占め、「有機的組織」(34%)、「官僚制組織」(13%)を大きく上回った(拙著『仕事人(しごとじん)の時代-インフラ型への企業革新』有斐閣、1999年)。調査を実施した当時はインターネットもテレワークもあまり普及していない時代だったことを考えれば、今ならインフラ型組織への指向はいっそう強まっているのではないかと想像される。
企業だけではない。近年は教育や行政、NPOなどのなかにもインフラ型に近い組織が見られるようになってきた。社会が複雑になって人々の行動が多様化し、複数の組織に多元的に帰属するようになると、特定の組織が個人を囲い込むことが難しくなる。ITの進化は、それに拍車を掛ける。その結果、組織はますますインフラ型に近づいていくだろう。
大学も技術的には、すでに学生が好きな場所から世界中の大学の講義を受けられるようになっているし、個別大学の枠を越えて交流することもできる。したがって大学はいかに魅力的な授業を行い、交流の場を与えたり学習をサポートしたりできるかが問われるようになるはずだ。学生にとって、それはまさにインフラ型の大学だ。
AIやIoT(あらゆるものをつなぐインターネット)をはじめ、ITは加速度的に進化している。それにともなって組織の姿も急速に変化していくに違いない。私たちは、新しい組織に対してどのように関わっていくかが問われているといえよう。