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政策学会講演会特集

政策学会講演会(レポート)
『GDPを通じて脱炭素の影響を考える』

テーマ 『GDPを通じて脱炭素の影響を考える』
講師 石橋 英宣氏
日時 2022年11月7日(月)16:40~18:10
会場 新町キャンパス 尋真館Z20

 去る2022年11月7日、政策学会講演会に講師として内閣府政策統括官付参事官の石橋英宣氏をお迎えし、「GDPを通じて脱炭素の影響を考える」というタイトルでお話しいただいた。現在、石橋氏は環境要因を考慮した経済統計・指標を作成するプロジェクトに取り組んでおられ、その研究成果を今年8月に公表されている。今回の公演では、この内容の紹介を中心として、指標作成の問題意識、いわゆるグリーンGDPと言われる指標作成のこれまでの取組み、現在進められている指標作成やデータ整備などを明快にご解説下さった。
 気候変動対策は世界的にきわめて喫緊で重要な課題であるのは言うまでもないが、世界の温室効果ガス排出の現状を考えると、経済成長と脱炭素を切り離すことは困難である。従って、両者をいかに両立させることができるかが目標となる。その目標に沿った形で経済活動を評価するためには、どのような基準や指標を作成すればよいのかが指標作成の問題意識である。
 既に、指標作成の取組みは1990年代から、国連を中心に行われている。1993年に国連は「ハンドブック環境・経済統合勘定」を作成し、帰属計算という考え方を使って、汚染物質によって悪化した環境を回復するための費用を金額ベースで評価し、それをGDPから差し引いた「環境調整済GDP」を提案している。ただし、この指標では温暖化防止のためのCO2削減費用は対象外とされた。CO2の超過排出分による環境悪化を回復させる技術が存在しないため、環境を回復させる費用を算出することが不可能なことがその理由である。現在もそのような技術は存在しないため、このアプローチは気候変動対策には今のところ対応できず、新たな指標の作成が目指された。
 国連は、環境・経済統合勘定の改定を続け、環境経済勘定体系(SEEA)を策定し、2012年に国際基準として採択した。SEEAの特徴としては、経済に対する環境からの資源投入や、環境への汚染物質等の排出を物量ベースで把握し、一方で環境保護活動を金額ベースで把握し、統計的枠組みに組込まれたことである。この基準により、特に温室効果ガスの大気への排出勘定を扱えることになったことは大きなポイントである。現在では、90か国で採用されている。石橋氏が内閣府において進めておられるプロジェクトにおいても、このSEEAに基づき試算が行われており、二酸化炭素、メタン、非メタン揮発性有機化合物について、日本の排出量推移状況をご紹介いただいた。
 また、OECDが2018年に提案した「汚染調整済経済成長率」という指標を用いた試算結果についてもご説明頂いた。こちらは成長会計の考え方を拡張し、経済成長率の説明要因に汚染物質排出の寄与を組込むというものである。結果として、日本の1995年から2020年の間のGDP成長率は平均0.47ポイント押し上げたと推計される。公表時には様々なメディアで取り上げられるなど大きな反響を呼び、このような指標の作成・整備に対する期待の大きさが伺えたとのことであった。
 とはいえ、環境要因を考慮した経済統計・指標の作成は道半ばである。政府としては、引き続きデータの整備に取り組んでおり、またOECDも汚染調整済経済成長率の推計方法を改善中である。これらはエビデンスベースドポリシーメイキングに繋がるものであり、その考え方重要性を強調されて講演は終了した。
 ご講演後の質疑応答においては、現在の指標が抱える課題について学生から質問があり、その質問に対しては石橋氏の方からも考慮すべき大事な点であると率直に認められておられた。その後も活発な意見交換がなされ、盛況のうちに講演会は終了した。

(政策学部教授 川上敏和)