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加速化する少子化時代における職業としての大学教員あるいは産業としての大学

投稿者 柿本 昭人:2023年4月1日

投稿者 柿本 昭人:2023年4月1日


 「久しぶりに話ができませんか」と、企業への就職を経て、他大学の大学院に進学した卒業生から連絡がありました。7年ぶりのメールです。「何か困ったことになったの?」「そういうわけではないのですが、詳しくは今度会ったときに、直にということで」と、約束の日時になってその卒業生がやってきました。「大きい」を通り越した巨大な花束を抱えています。「どうしたのそれ?」「久しぶりに大学に行くので、政策学部のHPを見たら、先生が学部長・研究科長になられてて、それで同期のみんなにLINEをしたら、お目出度いことなので遅ればせながらですが、お祝いをしようってなりました。」「目出度いかどうかはさておいて、とりあえずありがとうね、感謝!」。
 その卒業生が「話がある」とやってきたのは、博士の学位取得の目処が立って、この4月からは有期ではあるが、ある有名大学の教員として勤めることになったという報告が目的でした。「学部の時に、君が将来は大学教員になりたいなんて言って、私が堅気になろうよって窘めたのにね。あの記事のこと覚えてるかな〔「止まらない少子化 楽観に流れ 対応後手に ニッポンこの20年 第1部(5)」『日本経済新聞』電子版2010/9/5付〕。1990年6月に合計特殊出生率が「1.57ショック」と呼ばれてトピックになったけれど、その後のバブル崩壊と金融破綻処理に追われる中で人口問題が雲散霧消してしまったこと。少子化対策基本法が成立するのはやっと2003年7月で、その間も出生数も合計特殊出生率もほぼ下がりっぱなしだったでしょ。2022年について言えば、大学進学率は57%近くにまで上がったにもかかわらず、私大の5割が定員割れの現状だよ〔「入学定員割れは5割に 産官学の枠超す取り組みが重要」『日本経済新聞』2023/2/15付〕。おまけにだよ、2022年の出生数は予想より11年もはやく80万人割れって記事が最近出たばかりじゃない〔「出生急減、80万人割れ 推計より11年早く 昨年の日本 経済不安の解消急務」『日本経済新聞』2023/3/1付〕。私が教員になったころの学生は第二次ベビーブーマー世代で200万人の出生数、君たちの世代の1990年代はじめの出生数が120万人、リーマンショック後の2010年代以降の出生数の落ち込みはさらに加速してきたわけじゃない。職業としての大学教員あるいは産業としての大学の未来予想図は明るいトーンかな?2022年の12月末に内閣府の出した『令和4年度 年次経済財政報告』に「一人当たり名目賃金・実質賃金の推移」(106頁)のグラフが出てるのだけれど、呆然となるよ。実質賃金の方だけど、1991年を100として、2020年アメリカ約147、イギリス144、ドイツ134、フランス130って感じで基本一貫して上昇しているのに、日本はほぼ横ばいの103。どうしてこうなったかの分析も続いてあるのだけれど、投資の低迷、新たな成長分野の創出失敗、賃金はコストと認識、非正規雇用者の比率増大みたいなところなんだよね。大学の収入が基本的には授業料収入に依存しているし、大学が未来への投資となればそれは確保した授業料のなかから2号基本金として工面することになっているわけで、家庭が子供の大学授業料の負担に耐えられる家計状況でなければそもそも大学進学は実現しないし、子供の数の減少が底割れしていけば、大学が魅力を高めることで学生を確保するのが一層難しくなる未来予想図しか見えてこなくない?」
 「いやぁ、でも僕はやっぱり大学という場所が好きなんです。政策学部に入って、それまでとは違う景色というか、自分が考えていることを議論できて、そこからまた気づきがあってもっと勉強したいなという刺激がいつもあったので。一方で大学院に入ると、とにかく論文を書きなさいという指導もあって、読みたい本があっても後回しという生活が続いてきました。有期ですが念願の大学教員になれるので、やっとその環境から抜け出せるかもという希望を抱いています。」
 「君が大事に思っている景色が残っている大学に、今度は有期の大学教員ではなくて、働く現実としての居場所をたぐり寄せられる次の幸運があることを切に願っているよ!」と餞の言葉を贈りました。翻って私たちの政策学部についても、想定よりも11年はやまった少子化を迎えた年である2022年生まれの子供たちが大学に進学する時期に、くだんの卒業生が大事に思っている景色が持続し、また発展した大学・学部であるには、今から2030年に向けていかに奮闘していくのかにかかっていることもまた間違いありません。