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京都ならではの都市農村協働活動とSDGsー和蝋燭、竹林を事例にー

投稿者 大和田 順子:2021年6月1日

投稿者 大和田 順子:2021年6月1日

若い世代で広がるSDGsへの関心
 2021年5月21日、京都市が「SDGs未来都市」(内閣府地方創生推進室)に選定されました[1]。4回目の今回は31自治体が選定され、累計で124の自治体(うち都道府県は14)となりました。同室の資料によれば2020年9月の調査で、SDGsを推進している自治体は54.5%にのぼり、前年の19.5%から35%も増え、自治体の関心の高さがうかがわれます。
 京都市のホームページによれば、計画名称は「千年の都・京都発!SDGsとレジリエンスの融合 しなやかに強く,持続可能な魅力あふれる都市を目指して」です。モデル事業のうち「京都産学公SDGsプロジェクト」では、持続可能な里山モデルの構築、情報発信や循環型社会の実現、SDGs教育の推進、に取り組むとあります[2]
 また、朝日新聞の全国調査によれば「SDGsという言葉を聞いたことがあるか」という問いに「ある」と回答したのは全体で45.6%にのぼり、年代別でみると、「15~29歳」が52.1%で最も高いことが明らかになっています。認知が半数を超えたのは今年からです[2]。
 筆者が担当している「NGO・NPO論」で4月に履修者に聞いたところ(回答228名)「SDGsのいくつかの目標に関心があり実践している」は41.2%にのぼり、「聞いたことはあるが、あまり理解していない」57%と合わせると、ほぼ全員がSDGsを知っており、すでに多くの大学生が何らかの実践を行うなど、関心の高さが把握できました。ちなみに、17目標のうち、関心が高い上位3項目は「目標5:ジェンダー平等を実現しよう」(55.3%)、「目標1:貧困をなくそう」(50%)、「目標10:人や国の不平等をなくそう」(47%)でした。
 このように、国民の半数以上がSDGsという言葉を知り、特に大学生など若い層で関心が高く、また、半数以上の自治体で推進されている状況です。

日本の世界農業遺産
 これまで筆者は、「世界農業遺産」認定地域を対象にSDGsの取組に関する調査・研究を行ってきました。FAO(国連食糧農業機関)が認定する「世界農業遺産」(以下、GIAHS)は、「社会や環境に適応しながら何世代にもわたり継承されてきた独自性のある伝統的な農林水産業と、それに密接に関わって育まれた文化、ランドスケープ及びシースケープ、農業生物多様性などが相互に関連して一体となった、将来に受け継がれるべき重要な農林水産業システムを認定する制度」です。国内では2011年に佐渡と能登が認定され、現在11地域が認定されています。また、日本では2014年度から農林水産省が「日本農業遺産」制度を開始し、現在22地域(うち3地域はGIAHS)が認定されています[3]。
 世界農業遺産には認定にあたり、5つの基準があります。食料および生計の保障、農業生物多様性、地域の伝統的な知識システム、文化・価値観及び社会組織、そしてランドスケープ及びシースケープの特徴です(表1)。表の下段にはSDGsでも重視されている環境・社会・経済の三側面を追記しています。

表1.世界農業遺産の5つの基準

表1.世界農業遺産の5つの基準

 近隣では、「琵琶湖システム」(日本農業遺産、2018年認定)や和歌山県「みなべ・田辺の梅システム」(世界農業遺産、2015年)」などがあります。日本の農業遺産の特徴は、都市農村交流など多様な主体の連携活動にあります。
 この5つの基準は、農業遺産認定地域や申請地域にかかわらず、地域固有の農林漁業の歴史や文化等を把握するうえで、重要な視点ではないかと考えています。
都市部の消費者が農山村地域や農林業に関心を持つには、都市農村交流や協働活動が入り口になるにではないかと考えています。筆者も縁あって京都に所在する大学に着任しましたので、これからの3年間は、京都や滋賀の農林漁業を農業遺産とSDGsの観点から探索し、地域の課題解決について探求したいと考えています。また、伝統工芸がどのように農山村・農林業やSDGsと関わりを持っているのか?という「問い」も持っています。
 幸い、知り合いからの紹介で京都市内の和蝋燭製造と向日市の竹林保全活動に関する予備調査を行うことができたので報告します。

和蝋燭

和蝋燭(わろうそく)の原料、ハゼの栽培(京都市右京区京北地域)
 「中村ローソク」(京都市伏見区)は、創業1887年の和蝋燭の工房です[4][5]。和蝋燭は京都市が指定する伝統産業74品目のひとつです。5月24日に和蝋燭職人で社長の田川広一さんにお話しをうかがってきました。谷崎潤一郎の『陰影礼賛』が描いた世界を思い出しました。
 その原料は櫨(ハゼ)で、現在は主に和歌山県産(有田市、海南市)のものが使用されています。以前は長崎県島原市が主産地でしたが、1991年に起きた雲仙普賢岳の大規模火砕流により、櫨の産地は壊滅しました。

 産地で製蝋された大きいおわん型の蝋を原料とし、溶かして型に流しこみ、整形して蝋燭を仕上げます。近年は櫨の量が少ないので、植物由来の米ぬかやパーム油を原料とした蝋を開発し使用しています。
 中村ローソクの和蝋燭は全国の寺院の法要などに使用されています。使い残った和蝋燭を買い取る制度があるそうです。それを溶かしてもう一度新しい和蝋燭として販売するという廃棄物の出ない循環のしくみが今でも続いています。

ハゼの栽培

 田川さんは、2016年に有志と共に京都の社寺などで使われる和蝋燭の地産地消を目指す「京都 “悠久の灯(あかり)” プロジェクト」を開始しました。市内の伝統工芸職人らが法人を立ち上げ、京都市とも連携しました。林業専門学科のある京都府立北桑田高校も参加し、学生もハゼの栽培から蝋の加工までチャレンジしています。約2,000本植樹し、2019年には高校生と一緒に実際にハゼの実から油を搾り、蝋を作りました。残念ながら昨年は新型コロナ感染拡大のためにこうした活動ができませんでしたが、今後も継続していくとのことです。

コロナ禍で和蝋燭業界も大きな影響を受けていますが、田川さんはその時間を活かして新商品を開発中です。芯の端や回収した蝋など未利用資源に北山杉のチップを混ぜて、キャンプ用の固形燃料を試作。最近は、お一人様キャンプ愛好家も増えていますのでニーズに合いそうです。
農林業地域ではありませんが、和蝋燭を農業遺産の5つの基準にあてはめてみました(表2)。植物由来、廃棄物がほとんど出ない循環の仕組み、陰影を尊ぶ日本の文化等の特徴を記載しました。

表2.和蝋燭の要素

表2.和蝋燭の要素

竹林保全活動(向日市西ノ岡丘陵)
 京都府南西部の乙訓地域はタケノコの産地として知られていますが、放置竹林の増加が課題になっています。市民団体「藪の傍(やぶのそば)」(代表:小関皆呼(みなこ)さん)は、地元の竹産業者、竹の研究者、建築の専門家や市民らが参加し、2017年から約2万平方メートルの竹林を整備・保全活動を行っています。活動は主に日曜に行われ、SNSや知り合いの紹介で集まった親子連れからシニア層まで多世代が参加しています。
 2020年はタケノコの京都式軟化栽培体験、タケノコ畑の藁敷き・土入れ、幼竹を採取してのメンマづくり、放置竹林の間伐、竹のジャングルジムづくり、ベンチとテーブルづくりなど、楽しみながら竹林を整備するプログラムが実施されました。2021年度はこれらに加えて竹林エリア全体の景観をデザインしていく計画とのことです。

竹林とタケノコ
写真左から冒険小屋づくり(2018年)、玉ねぎ竹茶室(2019年)、メンマづくり(2021年5月)

 また、市のホームページによれば、2015年に「向日市歴史的風致地維持向上計画」が認定され、維持向上すべき歴史的風致の一つとして「竹林とタケノコ栽培に係る歴史的風致」が挙げられています。歴史まちづくり法は、歴史的風致の維持向上を図ろうとする市町村が策定する歴史的風致維持向上計画を主務大臣(文部科学大臣、農林水産大臣、国土交通大臣)が認定し、その取組を支援するものです。計画の認定都市数は現在全国で86都市となっています[6]。「全国的にも貴重な古墳群が展開する向日丘陵の起伏に富んだ斜面を覆う緑の竹林と、ワラの間にのぞく赤土のコントラストは、美味しいタケノコづくりに取り組む農家の努力の結晶ともいえる見事な風景であり、向日市を代表する歴史的風致である[7]」また、竹林をぬうようにのびている道に、モウソウチクを使って竹垣を配し、整備されている散策道「竹の径」は京都府選定文化的景観にも選定されています。
 竹林保全活動も世界農業遺産の基準にあてはめてみました(表3)。上質なタケノコ生産の技術、美しい景観、竹林保全活動、竹の文化を活かした暮らしとその歴史などを記載しました。また、環境保全の側面では、孟宗竹は環境省により産業管理外来種(産業または公益的役割において重要であるが、利用上の留意事項が求められるもの)に指定されており、適切な管理が周辺の生態系の保全に欠かせません。

表3.竹林保全活動の要素

表3.竹林保全活動の要素

関連するSDGsターゲット
 最後に、今回報告した和蝋燭、竹林保全活動についてSDGsの目標およびターゲットとの関連を確認します [8]。以下の持続可能な食料生産システム(目標2)、持続可能なライフスタイルの学習(目標4)、持続可能なまちづくり(目標11)、持続可能な生産消費(目標12)との関連があると言えるでしょう。
・2.4 2030 年までに、生産性を向上させ、生産量を増やし、生態系を維持し、気候変動や極端な気象現象、干ばつ、洪水及びその他の災害に対する適応能力を向上させ、漸進的に土地と土壌の質を改善させるような、持続可能な食料生産システムを確保し、強靭(レジリエント)な農業を実践する。
・4.7 2030 年までに、持続可能な開発のための教育及び持続可能なライフスタイル、人権、男女の平等、平和及び非暴力的文化の推進、グローバル・シチズンシップ、文化多様性と文化の持続可能な開発への貢献の理解の教育を通して、全ての学習者が、持続可能な開発を促進するために必要な知識及び技能を習得できるようにする。
・11.a 各国・地域規模の開発計画の強化を通じて、経済、社会、環境面における都市部、都市周辺部及び農村部間の良好なつながりを支援する。
・12.8 2030年までに、人々があらゆる場所において、持続可能な開発及び自然と調和したライフスタイルに関する情報と意識を持つようにする。

 今後も引き続き、京都や滋賀の都市農村交流や協働活動、伝統工芸の現場や原材料の産地などでフィールドワークを行うとともに、農山村・農林業にまつわる文化や暮らしとSDGsとの関わり、またその知恵を他の地域や海外の農山村の課題解決に活かす方策を調査・研究していこうと考えています。関連する情報をお知らせいただければ幸いです。

参考資料
[1]内閣府地方創生推進室「地方創生に向けたSDGsの推進について」2021年2月
https://future-city.go.jp/data/pdf/sdgs/sdgs_bk.pdf)(閲覧:2021年5月20日)
[2]「京都市情報館」(京都市ホームページ)
https://www.city.kyoto.lg.jp/sogo/page/0000284783.html
 (閲覧:2021年5月20日)
[3]「第7回SDGs認知度調査」朝日新聞社https://miraimedia.asahi.com/sdgs_survey07/
(閲覧:2021年5月20日)
[4]世界農業遺産・日本農業遺産(農林水産省)
https://www.maff.go.jp/j/nousin/kantai/index.html(閲覧:2021年5月20日)
[5]「中村ローソク」ホームページ:https://www.kyorousoku.jp/ (閲覧:2021年5月24日)
[6]中村ローソク・田川広一が語る「和ろうそくの魅力」
https://www.youtube.com/watch?v=gp6KYPHQ4Lk(閲覧:2021年5月24日)
[7]歴史まちづくり(国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/toshi/rekimachi/toshi_history_tk_000010.html (閲覧:2021年5月24日)
[8]向日市歴史的風致維持向上計画
https://www.city.muko.kyoto.jp/kurashi/shisei/shisaku/1/5/1468369464910.html
(閲覧:2021年5月15日)
[9]なお、SDGsの目標とターゲットの新訳が「SDGsとターゲット新訳」制作委員会(委員長:蟹江憲史、副委員長:川廷昌弘)で制作されており、慶應義塾大学SFC研究所xSDGs・ラボのウエブサイトに掲載されている。
http://xsdg.jp/pdf/SDGs169TARGETS_ver1.2.pdf
ここでは外務省仮訳( https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/pdf/000101402.pdf )を記載した。(閲覧:2021年5月20日)