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働き方の選択と幸福度

投稿者 滝本 香菜子:2021年4月1日

投稿者 滝本 香菜子:2021年4月1日

 2021年3月20日発表の国連「世界幸福度報告書」によると、日本の幸福度は上昇している。具体的には、5.87ポイント(2017〜19年の平均)から6.12ポイント(2020年平均)へと改善された(最も幸福度が低い0から、最も幸福度の高い10で評価した結果)。withコロナによる新しいライフスタイルは、人々の幸福度にとってはプラスにも影響することが確認された。新しいライフスタイルの中で大きく変化したひとつは、働き方ではないだろうか。

 今、働き方は大きく変わりつつある。新型コロナウイルス感染症等の拡大防止対策として、在宅勤務が増加している。東京都の統計では、2020年4月時点のテレワーク導入率は62.7%に上昇した(従業員30人以上の都内企業1万社を対象にしたアンケート調査)。同調査では、1ヶ月の勤務日数(約20日)のうち、6割おおよそ12日を自宅で働いていることが明らかになった。また、テレワークは従業員数の多い企業ほど導入率が高く、従業員が300人以上の企業では79.4%に上る。平日は毎日同じオフィスまで満員電車に乗り、9時に出社し17時に帰る。今日の当たり前の生活は、これからの当たり前ではなくなるかもしれない。「働き方を自分で選ぶ」時代は決して遠い未来の話ではない。
 
 職業選択の変化は、働き方の選択にとどまらない。日本の平均寿命は、男性が81.4歳、女性が87.5歳で男性は8年連続、女性は7年連続で過去最高を更新し続けている(厚生労働省2019年統計)。一方で、時代の変化のスピードは加速している。たとえば、スマートフォンの世帯別普及率は2010年には10%程度であったが、それから10年にも満たない2019年には80%を超えた。つまり、従来の緩やかな変化の時代における短い人生から、急激な変化の時代における長い人生を送ることになる。ここで問題になるのは、キャリア・デザインではないだろうか。一度の人生が一つの職種で完結する従来型の働き方は通用しなくなる。時代の変化が速ければ、必要とされるスキルはどんどん更新される。それに従いかつては価値があった知識や技能が必要とされなくなる。

 どのような働き方の選択、キャリア・デザインが幸福な人生につながるのだろうか?答えはもちろん単純なものではない。現在、研究の結果から明らかになったピースをひとつずつ眺め、未来の全体像を予測することしかできない。一つ目のピースは、国連の幸福度ランキング4年連続のフィンランドの働き方である。フィンランドの働き方は選択の自由度が高い。残業が非常に少なく、フレックスタイムや在宅勤務を行う人も多い。加えて、年齢・性別・肩書などで企業内での差が小さく、フラットな組織構造を持つ。こうした傾向は、男性の8割が育休を取得していることにも現れている。働き方の選択の自由度はオフィスの作りにも見られる。最近、日本の会社でも取り入れられ始めた「フリーアドレス(自分の固定の席や個人オフィスを持たず、共同のオープンスペースを仕事場とする)」が多くの企業で取り入れられている。働き方において選択の自由度が非常に高いことが幸福度への要素といえる。

 二つ目のピースは、働き方の選択における自由度の男女の違いを知ることである。仕事における自由度(作業量のコントロールと日程のコントロール)と幸福度の関係を分析した2017年のイギリスの研究によると、男性であれば仕事の進め方とペースを自分で決められるほど幸福度が高い。対して女性では、仕事をする場所とタイミングの自由度が高いほど、幸福度も高くなる。もちろんすべての男女に当てはまる訳ではなく、大まかな傾向として確認されたにすぎないが、男性は仕事の順番や締め切りを決められる方が幸福な働き方に近づき、女性はリモート・ワークが幸福な職業環境に近づくともいえる。

 三つ目のピースは、職業選択の基準を見直すことである。一般的に仕事を選ぶ際に重視されることが、必ずしも幸福な選択になるとは限らない。具体的には、給与や職種、好きな仕事かどうか等があげられる。こうした要素は、一時的な幸福度を上昇させることはあるが、長期的な幸福度の上昇にはつながらない。Kahnemanの2010年の研究からは、給与は世帯所得で年収約75,000ドル以上に増加しても、幸福度は増加しない。加えて、幸福度の増加率も75,000ドルに近づくほど小さくなる。給料の高さと幸福度はイコールとはいえない。また、ミシガン州立大学が2015年に行った研究によると、好きな職種や仕事を選択した場合も幸福になれるとも言いきれない。同研究では、好きなことを見つけ仕事にしたグループと仕事は続けることで好きになると回答したグループに分け、その幸福度、年収やキャリアを比較した。結果は、好きな仕事を選んだグループよりも後者の仕事を好きに発展させていったグループの幸福度や年収、キャリアの満足度が高かった。一般的にいわれてきた職業の選択基準は、必ずしも幸福度を高めるとはいえず、職業選択に関わる自分の好みでさえ正しいとはいえない。

 これから先の社会では、働き方の選択はより自由になる。働き方の選択肢が増えることによって、以前の自分より幸福な働き方を選び、設計することが可能になる。その際に必要となるのは明確な価値基準というよりは、何度も学びながら新たな知識や技能を試し、自分の人生をデザインする思考を続けることではないだろうか。