政策学会講演会特集
政策学会講演会(レポート)
『交通政策と持続可能な社会—日本最古の私鉄が挑戦するデジタルトランスフォーメーション』
テーマ | 『交通政策と持続可能な社会—日本最古の私鉄が挑戦するデジタルトランスフォーメーション』 |
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講師 | 中川 和幸 氏 |
日時 | 2025年6月10日(火)14:55~16:25 |
会場 | Z21 |
去る2025年6月10日、南海電気鉄道株式会社 デジタル変革室 DX戦略部長である中川和幸氏を講師としてお迎えし、「交通政策と持続可能な社会—日本最古の私鉄が挑戦するデジタルトランスフォーメーション」をテーマにご講演いただいた。中川氏は南海電鉄においてデジタル戦略の中核を担い、鉄道事業を軸とした新たな価値創出や社会課題の解決に向けた多様な取り組みを推進されている。近年は「新規事業の立ち上げ」や「DX」に注力されており、こうした鉄道事業以外のご経験にも触れられながら、持続可能な交通を目指して鉄道事業者としてDXに取り組むことことの意義についてご講演いただいた。
講演ではまず、1885年創業の南海電鉄が、伝統ある企業としてどのようにDXを取り入れ、現代社会に適応してきたかが紹介された。タッチ決済やQRコード乗車券の導入といった利用者視点の利便性向上施策に加え、なんばパークスや高野山といった沿線資源と連動した観光・流通施策、さらにデジタルきっぷを活用した商業施設や自治体との連携事業など、鉄道会社としての枠を超えた多角的なアプローチが示された。
具体的な事例としては、イオンモールとの連携による「買い物金額に応じたきっぷ提供」キャンペーンや、自治体と協力した地域イベントへの集客支援、歩数計アプリとの連携による健康促進施策などが紹介された。これらはいずれも「人の移動」を新たな視点で捉え直し、地域の賑わい創出や人々の行動変容を促すものとして高く評価されている。企業による輸送サービスが、いかにして地域経済・社会との接点を持ち、持続可能な形で公共交通を支えていけるかを考えるうえで、重要な示唆を与える内容であった。
また、講演の終盤では「価値交換」の進化を軸に、現代におけるビジネスモデルの本質を問い直し、「鉄道×〇〇」の多様な可能性が語られた。中川氏の講演は、単なる交通手段としての鉄道を超えて、都市・地域との関係性を再構築する試みであり、学生にとって「公共交通」と「まちづくり」をつなぐ新たな視座を得る貴重な機会となった。履修生だけでなく大学院生や他学部の教員・学生、さらには卒業生のご家族など幅広い方々にご参加いただいた。質疑応答においては、鋭い質問が飛び交うなど活発な議論となり、盛会のうちに終えることができた。
(政策学部准教授 安達 晃史)
