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政策学会講演会特集

政策学会講演会(レポート)
『世界経済の潮流2024Ⅰ AIで変わる労働市場』

テーマ 『世界経済の潮流2024Ⅰ AIで変わる労働市場』
講師 石橋 英宣 氏 
日時 2024年10月21日(月)16:40~18:10
会場 Z30

 去る2024年10月21日、政策学会講演会に講師として前・内閣府政策統括官付参事官で現在公益社団法人日本経済研究センター研究本部主任研究員の石橋英宣氏をお迎えし、「世界経済の潮流 2024年 I  AIで変わる労働市場」というタイトルでお話し頂いた。「世界経済の潮流」は世界経済の動向について内閣府が年に2回作成している報告書であり、石橋氏は前職時にその作成に携わっておられた。2024年前半の世界経済の状況についての分析結果は今年8月に公表されている。今回の講演では、その中からAIの労働市場への影響と今後の世界経済状況の予測についてご解説頂いた。
 講演の前半はAI技術の社会への浸透により労働市場にどのような影響が及ぶかについて概説された。AIは新たな汎用技術として今後の経済・社会に大きな影響を与えることが予測されている。その労働への影響は2種類に分類される。人が提供していた労働サービスにとって代わる代替的なタイプと、様々なIT技術と似た形でこれまでの働き方を補い、人の生産性を上げる補完的なタイプである。この2種類の影響を踏まえると、物理的な作業が中心のAIに影響を受けない職業、AIにとってかわられ雇用が減少する職業と、逆に今まで以上に生産性が高まる職業の3つに分けられる。このような労働者一人一人への影響を踏まえ、国レベルのマクロ経済にどのような変化がもたらせられるだろうか。石橋氏によると先進国と途上国で受ける影響は異なるということであった。途上国では就業者の多くが第一次産業を中心として物理的作業に関わる仕事に従事しておりAIの影響は限定的であるが、先進国では多くの労働者がAIに影響を受ける仕事に従事しており、労働市場で大きな構造的変化に迫られるだろうとのことであった。その際には職業移行やリスキリングに課題が生じるが、EUやアメリカなどの先進諸国が対応を進めているのに対して、日本の取り組みが遅れているとご懸念を示された。
 講演の後半は世界経済の今後についてであった。特に、世界経済の中心的な国であるアメリカと中国についてご説明頂いた。まずアメリカと中国では経済運営が大きく異なる。アメリカはGDPの構成比で見ると消費が70%近くを占め、消費が経済を引っ張る形となっている。コロナ後のインフレが個人消費にどのような影響を及ぼすかが懸念材料であったが、半導体関連の設備投資が堅調で、移民流入の上振れによる潜在成長率の上昇などにより、景気動向は概ね順調とのことであった。
 一方の中国の経済運営は投資がGDPの40%を占めるのが特徴的である。また政策的にも投資の下支えと、自動車の販売を促進する政策が続けられてきた。けれどもこれらの政策は内需の好循環に繋がっていない。また近年、投資の主要な要素の1つである不動産市場の停滞を背景に、雇用や所得に関する実感指数は低調となっている。中国経済は、これまでの高成長の経済から、構造調整の過程へと移行している局面であるが、その不透明感は増しているとのことであった。
 最後に、講義内容に関する質疑応答の時間を設けた。学生からは途上国における農業従事者へのAIの影響は小さいとされていたが、農業機械などの向上を通じた影響はないのかといった質問や、自動車産業における中国EV車の優位は今後も続くのか、それが世界の経済へどのような影響をもたらすのかといった質問が出された。前者については、途上国において、農業は大規模化や機械化が進んでおらず、当面の影響は限定的であるとのご回答が示された。また後者については、EV車のバッテリーに使われるリチュウムの生産は中国が大きなシェアを占めており中国の優位は続くであろうとのことであった。
 ご講演後には、学生の理解を深めるために課題を出され、やや難度の高いものであったが、多くの学生が熱心に取り組んでいた姿は印象的であった。このような形で盛況のうちに講演会は終了した。

(政策学部教授 川上敏和)

20241021石橋氏    (107131)