政策学会講演会特集
政策学会講演会(レポート)
『世界経済の潮流 2023年 I~アメリカの回復・インドの発展~』
テーマ | 『世界経済の潮流 2023年 I~アメリカの回復・インドの発展~』 |
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講師 | 石橋英宣氏 |
日時 | 2023年10月16日(月)16:40~18:10 |
会場 | Z30 |
去る2023年10月16日、政策学会講演会に講師として内閣府海外経済分析担当参事官の石橋英宣氏をお迎えし、「世界経済の潮流 2023年 I ~アメリカの回復・インドの発展~」というタイトルでお話しいただいた。「世界経済の潮流」は世界経済の動向について内閣府が年に2回作成している報告書であり、石橋氏はその作成に現在携わっておられる。2023年前半の世界経済の状況についての分析結果は今年8月に公表されている。今回の講演では、その概要についてご解説頂いた。
2020年以降、コロナ禍で大きく落ち込んだ世界の経済活動は、全般的に回復傾向にある。ただし、その内容は国や地域ごとに異なり、例えば、物価上昇が顕著なアメリカ、ユーロ圏を比較しても、アメリカは物価上昇と賃金上昇の乖離が少なく個人消費も着実に伸びている一方で、ユーロ圏では物価上昇に賃金上昇が追い付かず、個人消費の伸びも鈍い。それらは家計の貯蓄動向にも表れていて、コロナ禍に形成された貯蓄超過は、アメリカにおいては取り崩され消費に回る一方で、ユーロ圏では積み増しの状態が継続してきている。それらが回復力の差として表れているとのことである。
また欧米の中央銀行はインフレ対策として金融引き締めを継続中であり、金融資本市場の動向にも注視が必要である。特に証券化商品の下落等を通じた金融資本市場の過度の変動と金利高止まりによる企業の設備投資の急減は世界経済にとって懸念材料であるとのことであった。
コロナ禍以降で最も懸念されているのは中国経済の減速であり、感染症が収束して経済活動の正常化が進んでいるものの、世界的な半導体不況や中国国内の不動産市場の低迷から、生産・消費の回復テンポは緩やかである。また若年層の失業率が過去最高の水準を記録しており、心配材料が並ぶ状態となっている。石橋氏によれば、リスクとなりうる要素は確かにあるものの、メディアではネガティブな側面がやや過剰に報道されている傾向にあり、現在の各種経済指標からは、そこまで中国経済を悲観する必要はないのではないかとの見立てであった。
コロナ後の世界経済は回復基調にあるが、その程度も実態も様々であり、懸念されるリスクも様々に存在する。その中で今後期待されているのがインドの経済発展である。講演の後半では、インド経済を取り上げ、その可能性についての分析をご紹介下さった。インドは2023年には中国を抜いて人口が世界最多となると予想されている。また、人口構成の面から見ても、中国が急速に高齢化している一方で、インドの高齢化はまだまだ緩やかである。このようなインドの人口動態から市場規模やその成長性へ期待がされており、日本企業の関心も高まっている。
インド経済の実態としては、経済成長に欠かせない第2次および第3次産業など高生産性部門へのシフトが緩やかであり、未だに農業部門の就業者4割を超える。生産性の上昇率は、中国と比較してまだまだ低く、貿易構造からは中国が機械製品などの資本集約財に強みを持つのに対し、インドは一次産品の輸出に占める割合が大きい。その一方で、インドはIT・ビジネスサービスに強みを持ち、また近年では直接投資も伸びており、それによる製造業の活性化が期待されているとのことであった。
ご講演後には、学生の理解を深めるために課題を出され、やや難度の高いものであったが、多くの学生が熱心に取り組んでいた姿は印象的であった。その間、個別に質問に来る学生もおり、その場では活発な意見交換がなされる様子が見られた。このような形で盛況のうちに講演会は終了した。
(政策学部教授 川上 敏和)