政策学会講演会特集
政策学会講演会(レポート)
『緊急事態宣言への道』
テーマ | 『緊急事態宣言への道』 |
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講師 | 石橋英宣氏 |
日時 | 2023年5月29日(月)14:55~16:25 |
会場 | R204 |
去る5月29日(月)に、政策学会講演会の講師として、内閣府参事官、内閣府政策統括官の石橋英宣氏に御来校頂き、「緊急事態宣言への道」と題してご講演を賜った。石橋氏はコロナ禍初期に大臣官房として新型コロナ感染症対応に従事され、最初の緊急事態宣言が解除され、第一波の流行が治まったタイミングでその立場から離れられた。その1年後のアルファ株、ベータ株流行期にも内閣官房コロナ室にてAIシミュレーション事業、行動規制緩和事業等のコロナ対応をご経験された。今回はそのご経験をもとに、特にコロナ禍初期に政府がどのような状況下に置かれ、どのような判断や対応を迫られたのかを中心にお話しされた。
まず、新型インフルエンザ特措法や緊急事態宣言が人々の行動にどこまで制限をかけられるものなのかの解説を行われた。日本では強い行動制限がかけられない法律の立て付けとなっており、その制約の下に政府は感染症対応に臨まねばならないことが大きな前提条件であった。次に、コロナ禍初期の出来事を時系列順に詳細にサーベイされ、その都度の政府内部における雰囲気や、何が中心的な問題と捉えられていたか等の振り返りがなされた。この時期の特徴としては、新型コロナ感染症について多くのことが分かっていない手探りの中で、死亡率の高さ等から高い緊張感で政策のかじ取りがされていた様子を具体的なエピソードを交えながら分かりやすくお伝え下さった。その上で緊急事態宣言が発令された経緯や発令の理由について、当時の感染状況の特徴、新型コロナウイルスについて当時知りえたエビデンス、物資の需給ひっ迫状況の3つの点に整理されてお話し下さった。更に緊急事態宣言の効果や副作用として、どのような影響が人々の活動に及ぼされたのかを感染者数と人流のデータに基づいて解説された。前述したように日本では強い行動制限がかけられず、人々の自主性に多くを委ねることになる。その結果、第一回目の緊急事態宣言においては大きな人流抑制効果が働いたものの、宣言の発令が繰り返されるごとに宣言の影響力は低下していくことがデータからも確認されるとのことであった。
最後に政策対応について総括され、今後について、専門家や有識者の見解を取り上げられながらまとめをされた。専門家の理論モデルによる予測が感染症対策に大きく貢献したことは今回の評価すべき点である。一方で、未知の経験についての政策対応の難しさについて行政府として改めて噛み締めることとなったとも心情を吐露され、この教訓は若い世代に伝えていってほしいと思いを口にされていたのはとても印象に残った。人獣共通感染症が今後もパンデミックを引き起こすことは疑いがなく、それへの備えをすることは急務であり、多角的な視点と立場から、今後も継続的に検証されるべきであるとの結論で講演は締めくくられた。
(政策学部教授 川上 敏和)