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金(ゴールド)価格高騰の理由
投稿者 根岸 祥子:2025年10月1日
2025年9月9日、金の小売価格が初めて1グラム1万9,000円を超えました(下図)。近年金価格の上昇傾向が続いていますが、その一方で同じく指輪など宝飾品の材料としても知られるプラチナの価格は低迷しています。この背景にはどのような事情があるのでしょうか。
まず、地球上に存在する金とプラチナの総量について考えてみましょう。これまで人類が採掘した金の総量は長さ50メートルのプール4杯分弱、地中に残る金の埋蔵量はプール1杯分弱に相当するとされています。これに対して、これまでに採掘されたプラチナの総量は50メートルプールの足首が浸かる程度にしかなりません。このような事情を反映して、20年ほど前までは金よりもプラチナ価格の方が高い状態が続いていました。
昨今の金とプラチナの価格逆転の背後にある一要因として、2種類の金属の用途の違いが挙げられます。まずプラチナですが、宝飾品として好まれるのは日本を含む一部の国にとどまり、工業用需要が60%以上を占めています。特に自動車産業における排ガス浄化触媒としての利用が知られていますが、近年ガソリン自動車からEV(電気自動車)へのシフトが進むにつれて、プラチナの需要は減少傾向にあります。他方、金はかつて貨幣として流通していた歴史からもわかるように普遍的価値を持つ資産として広く受容され、最近では宝飾品にとどまらず、投資対象としての需要が高まっています。
さらに、近年の金価格高騰の背後にある最大の要因は「ドル離れ」です。第一期トランプ政権以来の「アメリカ第一主義」に加え、コロナ禍以降悪化の一途をたどる米国の財政状況が基軸通貨ドルへの信認を低下させ、ウクライナ侵攻やガザ紛争といった国際社会の分断もドルの地位を揺るがしています。「グローバルサウス」と呼ばれる新興国の中央銀行はドルの代わりとなる金の買い入れを加速させ、投資家も国の信認に依存しない「無国籍通貨」かつ「安全資産」である金に資金を逃避させています。
今年に入り、トランプ大統領は米国の中央銀行に相当する連邦準備制度理事会(FRB)に対し政策金利の引き下げを再三要求し、理事の解任や次期議長の人選を通じて利下げを実現させようとしています。また、米国内で大規模減税を掲げる予算調整措置法案(One Big Beautiful Bill)が成立したことにより一層の財政悪化が懸念される中、低金利かつ信用度の低いドル建ての金融資産の魅力が低下しており、金に向かう投資資金が急増しているのが現状です。
このように、金価格の高騰は複合的要因によって引き起こされています。ドルへの信認や国際情勢に大きな変化が生じないかぎり、金価格の高止まりは続くのではないでしょうか。
