政策最新キーワード『就活とメンバーシップ型雇用』
就活とメンバーシップ型雇用
投稿者 久保 真人:2025年1月6日
この原稿を書いているのは2024年が終わろうとしている12月末です。今,3回生には「就活」の波が押し寄せています。公には大学の授業が終了する3月からスタートするというルールになっていますが,インターンシップ等の名称で実質的な選考が始まっています。企業の採用活動がこの時期に集中するので「自分の適性をじっくり考えてから・・・」とゆったり構えていると,あっという間に採用枠が埋まってしまいます。キャンパスでの勉強やサークル活動,バイトや遊びなど,それぞれの大学生活を送ってきた学生達は,皆一斉にリクルートスーツを身につけ,企業研究,自己分析をして,面接に臨みます。毎年のことなので珍しくない光景ですが,こんなことをしている国は世界では極めて少数です
なぜ学生と企業がある時期に一斉に動き出すのか。それは日本の企業の多くが「新卒一括採用」というやり方をとっているせいです。皆3月に学校を卒業し,切れ目なく直後の4月に新社会人として入社します。また,日本の就職は「就社」と呼ばれるほど,新卒で採用された会社でキャリアを通じて働き続ける人が,以前と比べれば転職者が増加したとは言え,数多くいます。こんな日本企業の採用,雇用のシステムをいつからか「メンバーシップ型雇用」と呼ぶようになりました。
「メンバー」という言葉からは,今流行のサブスク会員などを連想するかもしれません。日本の企業に就職することは,その企業のメンバーになることなのです。当たり前のことを言っているように聞こえますが,海外の国の就職のイメージとは異なります。日本式のメンバーシップ型に対照させて,海外の多くの国が採用する雇用方式を「ジョブ型雇用」と呼びます。企業はメンバーを採用するのではなく,事業をおこなっていく上で必要な職務(ジョブ)をこなせる人を採用するのです。企業が誰かを採用するのは,転職者,退職者で職務に空きができたときや,事業を広げるなどして新しく職務が生まれたときです。なので,多くの企業が特定の時期に一斉に人を採用することはありえません。
メンバーシップ型雇用かジョブ型雇用かにより,働き方やキャリアの進め方に違いが生まれてきます。ジョブ型雇用では特定の職務で採用されるために,その職務に必要とされる知識,技能を習得していなければなりません。また,仕事に就きたいと思ったときに,必ずしも望んでいる業種や企業のポストが空いているわけではありません。大学や専門教育機関などで専門的な知識や技能を学び,まずは,働き場所を見つけ,そこで実績を積み上げながら,狙ったポストへの昇進,転職を目指す。ジョブ型雇用社会でのキャリアの典型的な形です。
メンバーシップ型雇用では,習得した知識や技能が評価される面はありますが,多くの企業が最も重視しているのが,「前に踏み出す力」、「考え抜く力」、「チームで働く力」といった「社会人基礎力」と総称される応募者の人間性です。また,入社後どのような職務を担当するかも基本的には白紙の状態です。採用担当者や重役から「この人にメンバーになってもらいたい!」と思ってもらうことが職を得る決め手になります。
メンバーシップ型雇用,ジョブ型雇用,それぞれにメリットがあります。一例をあげると,メンバーシップ型雇用ではメンバー同志の協力や信頼感,「会社のために」という愛社精神が生まれやすいと言えます。ジョブ型雇用では,自分でキャリアを描き,実現していくためには,競争的な環境の中で,不断の努力と主体的に動ける姿勢が必要となってきます。日本は,これまでメンバーシップ型雇用の下でめざましい経済発展を遂げてきました。仲間同志の信頼関係に支えられたチーム力,愛社精神から生まれる献身的な努力,これらは高度経済成長期の美談として語られてきました。しかし,情報通信技術の分野では後れを取り,得意としてきた製造業の分野でも新興国に足をすくわれる今,これまでのやり方を踏襲していくことへの危機感が高まっています。メンバーシップ型雇用も,日本企業の悪しき制度として語られ,ジョブ型雇用への転換は待ったなしであるとの論調が目につくようになってきました
しかし,何かを変える必要はあるのでしょうが,“変われない日本”があります。なぜ変われないのかについては,いろいろと複雑な理由があるのですが,そろそろこの頁のボリュームを越える字数になってきました。ということで,続きは別の機会に。
以上