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政策最新キーワード『土地と自治体』

土地と自治体

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投稿者 安達 晃史:2024年10月1日


 新庄耕の小説『地面師たち』が2024年7月にNetflixでドラマ化され,脚光を集めました。土地の所有者になりすまして売却をもちかけ,多額の代金を騙し取る詐欺がテーマで,実際に起きた不動産詐欺事件がモチーフとなっています。これを観て(読んで),「土地」に想いを馳せた人も少なくないでしょう。土地を所有するのは個人や民間企業だけでなく,国や自治体も所有しています。近年,各自治体では「土地」にまつわる様々な問題に対応が迫られています。今回は,①太陽光発電施設と,②空き地・空き家に関する問題についてご紹介します。

① 太陽光発電施設(メガソーラー)問題
 日本では2012年にFIT(再生可能エネルギーの固定価格買取制度)がスタートし,太陽光発電の本格的な普及が本格化しました。これ以降,全国各地でメガソーラーにまつわるトラブルが多発しており,2020年までに150件以上が新聞で報道されています(竹内, 2021)。
 例えば,宮城県加美町では経営難のゴルフ場の土地に関するトラブルが発生しています。ゴルフ場運営会社は,ゴルフ場存続を前提として加美町からゴルフ場の土地・建物を買い取った直後,太陽光発電事業を行う別会社に土地・建物を4倍の価格で転売する契約を結びました。これに対して町議会は全会一致で反対し,現在は土地の所有権をめぐって係争中となっています。奈良県五條市でもメガソーラー建設をめぐる対立が生じています。2022年に策定された「奈良新『都』づくり戦略」には,滑走路を備えた大規模防災拠点の整備計画が示されていましたが,23年に県知事が荒井氏から山下氏に変わり,計画変更が示されたことに端を発します。五條市にある県有地に約25haのメガソーラーを建設する案に対して,地元住民からの強い反発もあり,メガソーラー計画を盛り込んだ新年度予算案は3月21日に奈良県議会予算審査特別委員会にて否決された後,計画は一旦白紙に戻りました。
 太陽光発電施設の建設においては,土砂流出や濁水の発生,景観への影響,動植物の生息・生育環境の悪化など様々な問題が懸念されています(地方自治研究機構, 2024)。こうした問題に対応するべく,「太陽光発電設備の規制に関する条例」が制定されるようになりました。2024年8月末時点で290条例あり,現在も各地で制定が進められています(図1)。先の例で挙がった五條市でも,「五條市太陽光発電設備の適正な設置及び管理に関する条例」が2024年5月1日に施行されています。
 災害時でもエネルギーの安定供給が可能なインフラを整備する,というレジリエンスの観点は重要ですが,自然環境の保護という観点も非常に重要で,今まさにそのバランスが問われています。今後も,メガソーラー設置に対する自治体の動きには「目が」離せません。

図1太陽光発電設備等の設置を規制する条例の制定数.jpg (104820)
出典:地方自治機構(2024)のデータを基に筆者作成。

② 空き地・空き家問題
 メガソーラーのように特定の用途に関する土地の問題がある一方で,未活用・未利用のままとなった土地の問題も深刻化しています。国土交通省が2024年2月に実施した「土地の利活用・管理に関するアンケート調査」によると,39%の自治体が「管理不全土地が一定の地域に発生している」と回答しており,都市部から地方部まで幅広い地域で発生していることが明らかとなりました。中心市街地のスポンジ化や耕作放棄地の増加などといった問題が顕在化する一方で,そもそも空き地の担当部局がない,あるいは人員不足のために空き地の調査が実施できない,といった自治体内部の問題も絡んでくるため,非常に複雑です。多くの自治体では,空き地等の実態を把握する仕組みについての問題意識を持っているものの,人員・予算・制度的根拠等の制約により,実行できない状況にあるようです。
 空き地等の管理や利活用の促進のための具体的な取り組みとして,条例制定や,空き地利用希望者とのマッチング制度の導入などが挙げられます。471の自治体では空き地等の管理や利活用の促進のための条例が制定されている一方,7割程度の自治体では条例制定の検討すら行われていないのが現状です。空き地の状況を把握し,どのように活用を促していくかが課題となっています。
 また,空き地だけでなく空き家の存在も問題となっています。例えば2024年1月に発生した能登半島地震の被災地では,空き家が復興作業に支障をきたしています。損壊した空き家を公費解体1する場合は,原則所有者の同意が必要となります。しかし,所有者が不明な場合,裁判所が選任した管理人に処分を任せる制度2を活用することになり,手間と時間がかかってしまいます。市町村ごとに対応は異なりますが,単純に行政の費用負担が増えるだけでなく,手間もかかってしまう分,対応が後回しとなってしまうケースもあるようです。こうした事態を未然に防ぐためにも,災害に見舞われる前に空き家の利活用を推進していく必要がありそうです。

 まちづくりや地域政策において,「土地」は非常に重要な要素の一つです。上記のような問題を解決しながら,上手に土地を活用していくことが求められています。

 


1.石川県「令和6年(2024年)能登半島地震における被災建物の解体・撤去について」
https://www.pref.ishikawa.lg.jp/haitai/kouhikaitai.html 

2.民法(明治29年法律第89号)第264条の8第1項に基づく「所有者不明建物管理制度」のこと。詳しくは,内閣府防災担当からの各都道府県等への通知「令和6年能登半島地震により損壊した所有者不明家屋の解体について(周知)」を参照されたい。
https://www.bousai.go.jp/updates/r60101notojishin/pdf/tsuuchi_r6012902_seirei.pdf

参考文献
竹内敬二(2021)「No.254 増えるメガソーラーのトラブル/再エネを「地域に好かれるもの」にする」京都大学大学院経済学研究科再生可能エネルギー経済学講座コラム
https://www.econ.kyoto-u.ac.jp/renewable_energy/stage2/contents/column0254.html

加美町「ゴルフ場土地建物の転売に関する町の対応について」
https://www.town.kami.miyagi.jp/information/4312.html

地方自治研究機構(2024)「太陽光発電設備の規制に関する条例」
http://www.rilg.or.jp/htdocs/img/reiki/005_solar.htm

国土交通省(2024)「土地の利活用・管理に関するアンケート調査結果」
https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/content/001743570.pdf

日本経済新聞 2024年3月19日「能登半島地震、復興阻む空き家 治安悪化も懸念」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE1943A0Z10C24A3000000/