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政策最新キーワード『民意とはなにか?選挙制度を通じて考える』

民意とはなにか?選挙制度を通じて考える

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投稿者 吉田 徹:2024年9月2日


 民意という言葉が多く使われるようになったのは、ここ20年ほどのことだろうか。かつて、民意を作り上げ、代表するのは政治家や政党だったが、これらへの不信感が募ったこととも関係してかもしれない。しかし、そもそも民意とは何であるのか。そのことを考える手掛かりとなる選挙が最近2つあったので例に取ろう。
 ひとつは、6月と7月の二回に分けて行われたフランス下院選だ。これに先立つ6月9日、比例制のもとで行われる欧州議会選では極右・国民連合(RN)が得票率31%で首位に立った。これを脅威とみたマクロン大統領は下院を解散し、信を問うた。
 フランス下院選は、小選挙区制二回投票制という選挙制度をとり、二回にわたって選挙が行われるのが特徴だ。第一回投票で過半数を得た候補者がいない場合、12.5%以上の票を得た候補者全員が決選投票に進む。RNは第一回投票では得票率30%で首位に躍り出たが、決選投票で勢いを失う。与党連合と左派連合が決選投票で候補者を一本化、反RN包囲網をしいて一致団結したためだ。結果、決選投票ではRN88議席に対して左派連合が146議席と、第一回投票とは真逆の結果となった。
 しかし、これは誰しもが納得できない民意ともなった。RN支持者は既成政党に勝利を奪われたと感じ、水と油の関係にある左派支持者と与党支持者も、自分が支持していない候補への投票を余儀なくされたからだ。
 もうひとつの選挙は、7月にあったイギリスの総選挙である。同選挙で労働党は定数650議席のうち411議席を獲得、14年ぶりとなる歴史的勝利を収めた。しかし、同党の得票率は34%に過ぎず、これは202議席を得た前回選挙と比べて1.6%増に過ぎない。他方、前回選挙で圧勝した保守党は、得票率43%で356議席を得ていた。このように、得票率と議席の差が大きいのはイギリスが小選挙区一回投票制を採るためで、相手候補者より一票でも多く得た候補者が当選、民意を過剰に議席に転換する選挙制度を持つからだ。よって、この制度のもとでは、投票率で野党に負けても議席数で上回るという結果が出る場合もある。例えば、1974年の総選挙では、保守党は労働党に対し得票率差0.7%で勝利しながら、議席数では4議席差で敗北した。しからば、この選挙での民意はどこにあったのだろうか。
 ちなみに、世界の注目が集まるアメリカ大統領選だが、2016年には大統領に選出されたトランプ候補に対して、民主党のクリントン候補が有権者の票を200万以上多く獲得していたことはよく知られている。それでもトランプが勝ったのは、大統領選挙では、各州で異なる数の選挙人の総数でもって当選者が決まるためだ。有権者の数そのものではなく、選挙人を多く抱える州で過半数を取れば勝利できる仕組みになっているのである。
 このように、民主主義で民意がどのように反映されるかは、民意を変換する選挙制度如何ということになる。提唱されているように、仮にAIに民意の反映を任せたとしても、どのようなアルゴリズムが書き込まれるかによって変わるだろうから、基本的には同じことだ。
 日本でも選挙制度をめぐる議論が再燃している。94年の政治改革で実現した小選挙区比例代表並立制に欠陥があることは間違いない。重複立候補は相対多数の得票を得られなかった候補者の復活を可能にし、小規模政党でも議席が獲得できる比例制があるため野党が乱立し、強固な地盤を持つ議員を落選させることも難しい。民主主義である限り、民意が反映されなければならないのは当然のことだ。それとて、どのような民意が反映されるのかは制度次第であるということを忘れてはならない。