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政策最新キーワード『公務員と副業・兼業』

公務員と副業・兼業

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投稿者 入江 容子:2024年8月1日


 近年、副業や兼業についての社会的関心が高まっています。政府・企業側としては、副業や兼業を推進することで労働者のモチベーションを向上させることができるほか、多様なキャリア形成に役立てたり、成長分野への円滑な労働移動の推進を狙いとしているとされています。他方、労働者側としては、副業・兼業を通じて本業では得られないスキルの習得や人的ネットワークの構築、自分の活躍できる場の増加など、プラスの効果を実感できることが見込まれています。
 一般的に、副業とは本業以外で収入を得るための仕事を指します。これは本業の時間外に取り組む仕事になるため、仕事にかける労力は本業のほうが大きくなります。また兼業とは、本業以外に自ら営む事業や他の仕事を掛け持ちして働くことを指します。副業があくまでも「サブ」の仕事であるのに対し、兼業は本業と同じくらいの労力をかける仕事を指すことが多いようです。
 さて、こうした副業・兼業について、国や地方自治体で働く公務員には許されているのでしょうか。一般的な理解としては、公務員には副業・兼業は「禁止」されているというものではないでしょうか。公務員には職務専念義務があり、国民全体の奉仕者として、勤務時間や職務上の注意力のすべてを本業の職責遂行のために用いることが求められているからです。また、私企業等への関与及び他の事業又は事務の関与についても制限されており、職務以外の事業等に関係することで職務の適正な執行を損なわないようにすることが求められています。
 ただし、職務の公正な執行の確保及び公務の信用の確保の観点から、在職する機関と兼業先に利害関係がないなどの一定の条件のもとであれば、国家公務員においては人事院の承認を得たうえで、例えば農業、牧畜、酪農、果樹栽培、養鶏等や、自らが所有する不動産の賃貸を行う営利企業等における役員との兼業が認められています。また、内閣総理大臣及び所轄庁の長の許可があれば、職員が報酬を得て、営利企業の役員等以外の兼業を行うことも可能です。地方公務員についても同様の許可制が採用されており、任命権者に許可なく営利団体の役員等を兼ねること、自ら営利企業を営むこと、また報酬を得て事業又は事務に従事することはできませんが、逆に言えば、公務員としての仕事に支障をきたさないとして許可があれば兼業が認められる可能性が高いといえます。
 今般、地方公務員のこうした兼業許可について、一部の自治体現場からは基準が明確ではないことから必要以上に制限的な運用がなされているのではないかとの声があがっていたことから、許可基準を設定して広く公表することで、社会貢献のための兼業を促す動きもみられるようになってきました。これにより、例えばNPO活動や子どもたちへのスポーツ指導などの地域活動への参加、また専門知識を持った住民として地域における課題解決等に積極的に取り組むことなどが想定されています。
 こうした流れは、地域団体やNPOなどにおける高齢化による担い手不足の解消に寄与すると考えられるほか、本論の冒頭で述べたような労使双方へのプラスの効果も見込まれるところです。ただ、民間企業同様、公務員であっても、兼業・副業を推奨することによって長時間労働を誘発することがないよう、任命権者としては予めその内容を届け出る仕組みにより総労働時間の把握に努めるとともに、職員の就労・健康の状況を把握し、時間外・休日勤務の免除や抑制等に配慮することが求められると考えられます。「地域のため」だからといって、無定量に働かされることが推奨されるようなメッセージとならないことが重要ではないでしょうか。