このページの本文へ移動
ページの先頭です
以下、ナビゲーションになります
以下、本文になります

政策最新キーワード『誤認逮捕』

誤認逮捕

nakao.jpg

投稿者 中尾 祐人:2024年6月3日


誤認逮捕という言葉を聞いたことはありますか? 
誤認逮捕というのは,捜査機関がある人物を被疑者として逮捕したが,のちにその人物は実は無実であったことが判明した場合に使われる言葉です。(この誤認逮捕という言葉は実は法律上の用語ではありません)。おそらくは誤認逮捕などというのはあってはならないことであり許されないと考える人が多いのだろうと思います。しかし,驚かれるかもしれませんが,実は誤認逮捕はそれ自体では違法なものではないのです。
これを説明するにあたっては逮捕と有罪判決とを比較するのがわかりやすいと思います。中学や高校で学んだ人もいるかと思いますが,刑事裁判において最終的に有罪判決を下すためには,合理的な疑いを超える立証が求められます。これはほぼ100%その被告人が犯人であることの証明が求められるということです。逆に言えば,ほんのわずかでも被告人が犯人でない可能性が残る場合には,有罪判決を下すことは許されません。刑事裁判においては,「10人の真犯人を逃すとも,1人の無辜(むこ)を罰するなかれ」という大原則があり,確実に被告人が犯罪を犯したと確信できる場合にしか有罪判決を下すことはないのです。
それでは,逮捕という手続に目を向けるとどうなっているでしょうか。実は,逮捕というのは刑事訴訟法の中の捜査の章に規定が置かれており,捜査の手続のうちの一つです。捜査というのは犯罪の犯人や証拠を探し出すための手続なので,捜査が継続中であるということは犯人や証拠を探している途中であるということを意味します。そうすると,真犯人でなければ逮捕してはならないという考え方は成り立たないことがわかるでしょうか?つまり,被疑者を逮捕するのはその被疑者が犯人であるかどうかを調べるためなのであって,その被疑者が真犯人であることが確定したから逮捕するというわけではないのです。
もちろん,誰でも彼でも逮捕しても良いというわけではなく,刑法199条は「被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるとき」に捜査機関は被疑者を逮捕をすることができると定めており,一定程度の犯罪の嫌疑がなければ逮捕することは許されません。しかし,逮捕をするために求められる嫌疑の程度はおよそ50%程度あれば足りると言われています。つまり,その被疑者が犯人である確率が大体50%あれば,その被疑者を適法に逮捕することができるということです。もちろん,逮捕が被疑者に対して与える重大な不利益を考慮すれば,より確実な証拠がためを行ってから逮捕を行うことが望ましいことは言うまでもないですが,実効的な捜査活動や真実の発見のためには,ある程度の嫌疑のある人を逮捕せざるをえない場合もあるのは想像に難くないでしょう。
誰々が逮捕されたというようなニュースを目にした時,多くの人はその被疑者が犯人なのだと理解してしまうと思いますが,ここに書いたような法の建て付けから考えるとそのような認識はむしろ誤りであることがわかるのではないでしょうか。たとえ被疑者が逮捕されたとしても,有罪判決が確定するまではまだ犯人だと決まったわけではないと理解することが市民に求められる姿勢だと思います。