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情報提供による学習効果

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投稿者 野田 遊:2024年5月6日


 提供情報は、たとえ同じものであっても受けとる人により異なって認識されることがあります。そのため、相手に理解してもらいやすく情報を提供することが重要となります。もっとも、理解の難易度や関心の程度、わかりやすいグラフがあるかなどの情報の形式、あるいは、情報を提供するタイミングにより、受けとる人の認識は異なります。市民にとって非常に重要な内容であるにもかかわらず、それが専門的な情報であると、正確に認識されにくくなるのは容易に想像できます。
 専門的な情報の一つは財政情報です。自分が住んでいる自治体の財政状況は、自分たちの税金が適切に使用され今後も自治体運営が持続可能かどうかを判断するうえで、非常に重要ですし、誰もが関心をもっています。しかし、財政情報は、自治体の財政状況を示す財政力指数や経常収支比率、公債償還基金、特別会計など、難しいキーワードが並びます。また、自治体の財政が国の財政との関係で決まっているという制度理解の難しさもあります。このように用語や制度の理解が困難であるため、市民は財政状況を正確に把握できないから財政情報はいい加減に市民に示せばよいというわけにはいきません。難しいキーワードをわかりやすく説明しつつ、情報発信(広報)を行う必要があります。
 そうした難しい内容について誤った判断をしている市民に正しい情報を提供すると、市民は自らの誤認を是正するのでしょうか。すなわち、情報提供による学習効果は期待できるのでしょうか。仮に学習効果がないのであれば、政府が政策や制度に関する広報活動を行っても全く意味がないことになります。市民にとって財政情報は特に難しいので、市民による正確な認識は期待できないと思われがちですが、学習効果は一般的に存在するというのが行動行政学における共通認識です。
 京都市は、財政の非常事態宣言を20年以上継続し財政赤字を長い間出してきたため、2021年度から行財政改革計画を推進しています。その効果は今後しっかりとみきわめていく必要があるのですが、財政力指数や将来負担比率は少し改善し、2023年度は財政収支がバランスしました。こうした情報はきわめて難しい内容ですが、市民は一般に想定されるほど財政情報を認識できないわけではなく、情報提供を行えば誤認が一定解消すると考えられます。筆者は、2023年度にアンケート調査を通じて京都市民1,109名から得た回答をもとに、情報提供による学習効果を分析しました。何も情報を提供せずに京都市の財政状況を評価してもらった場合より、収支がバランスした事実のほか、財政力指数や将来負担比率の推移を示すなど財政情報を提供して評価してもらった場合の方が正確な評価が行われることがわかりました。しかも実際の財政状況を過度に低く(または過度に高く)評価していた市民は情報提供による学習効果がより高くなりました。すなわち、市民が最初に信じていた状況により学習効果は異なるということです。
 その他にも行政が保有する情報に対するアクセシビリティを低く感じている市民(換言すると、行政は情報を隠しているのではないかと不満に思っている市民)ほど、情報提供による学習効果は高くなる点も発見しました。こうした結果は、できる限り情報を提供せずに時間が経てば忘れるだろうといった政府の態度はよくないことを示しています。なぜなら、できる限り正確な情報をわかりやすく提供すれば、不満に思っている市民ほどより納得するからです。


参考文献Noda, Y (2024). “Information on local financial reforms and cognitive processes of citizens,” International Review of Administrative Sciences, https://doi.org/10.1177/00208523241240128