政策最新キーワード『インパクト投資』

インパクト投資

投稿者　新見　陽子：2024年4月1日

　新しいNISAの始まりや日経平均株価が34年ぶりに史上最高値を更新したことなどにより，今年に入り，投資関連のニュースが増えてきたように思われますが，みなさんは「インパクト投資」という言葉を耳にされたことはありますでしょうか。インパクト投資とは，財務的リターンを追求するとともに，ポジティブで測定可能な社会的および環境的インパクトを同時に生み出すことを意図する投資行動を指します¹。ここでのインパクトとは，事業や活動の結果として生じた社会的・環境的な変化や効果を指しますが，それが短期的なものであるか，あるいは長期的なものであるかは問われません。従来の「リスク」と「リターン」に，この「インパクト」という判断軸を加えて行われる投資がインパクト投資です。
　インパクト投資という用語は，2007年にロックフェラー財団主導のもとで開催された国際会議で誕生しました。その後，インパクト投資の規模と実効性を高めることを目的として，2009年にGlobal Impact Investing Network（GIIN）という国際的なネットワークが設立されるなど，様々なイニシアティブのもと，インパクト投資の枠組みが整備されてきました。例えば，GIINは，インパクト投資の特徴を，①ポジティブな社会的・環境的インパクトをもたらすことを意図したものであること（intentionality），②金銭的リターンを目指したものであること（investment with return expectations），③多様なアセットクラスでの取り組みであること（range of asset classes），④社会面・環境面における投資の成果を測定し，報告することを約束したものであること（impact measurement）という4つの構成要素としてまとめています²。
　従来は，社会問題や環境問題は慈善団体などによる寄付によって対処し，市場投資は財務的リターンを得ることに焦点をあてるべきだと考えられてきましたが，インパクト投資は，このような見解を覆すものだといえます。また，「持続可能な開発目標（Sustainable Development Goals（SDGs））」を達成するために必要となる莫大な資金需要を満たす手段の一つとしても，近年，インパクト投資に対する関心・期待が高まっていることも事実です。実際，GIINの推定によると，インパクト　投資の世界全体での市場規模は，2022年には1兆1,640億ドルに達したとされています³。興味深いのは，インパクト投資の拡大は，先進諸国のみに留まることなく，途上国，とりわけサブサハラ・アフリカ地域にも及んでいるということです。例えば，投資家の45％が北米地域に，次いで42％がサブサハラ・アフリカ地域に対し少なくともいくらかの投資配分を行っていることから，これら2つ地域が最も一般的な投資先地域になっていることがうかがえます⁴。加えて，インパクト投資は，投資先分野においても多岐にわたり，運用資産残高ベースでは，エネルギー（17％），金融（マイクロファイナンスを除く）（13％），ヘルスケア（9％），マイクロファイナンス（8％），食料・農業（7％）などが主要分野となっています⁵。
　このように，社会的・環境的課題解決への貢献が期待されるインパクト投資ですが，途上国では市場や制度・法的基盤が未整備であることに加え，政治リスクや信頼できる企業情報の収集の難しさなど，インパクト投資を促進していく上で課題が残っていることもまた事実です。前述のとおり，投資家の42％はサブサハラ・アフリカ地域にいくらかの投資配分を行っていますが，運用資産残高ベースでは，サブサハラ・アフリカ地域への配分は世界全体の約10％に留まっています⁶。したがって，最も資金を必要とする途上国により多くの民間資金を呼び込むためには，開発金融機関などが触媒的な役割を担うなど，官民連携の取組みがより一層求められています。