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自動運転は社会に何をもたらすのか?:学生ビジネスコンテストへの誘い

投稿者 三好 博昭:2022年5月1日

投稿者 三好 博昭:2022年5月1日

 自動車産業は、CASE1と呼ばれる領域によって、「100年に一度の大変革の時代」2に入ったといわれている。 このCASEは、「Connected:コネクティッド化」、「Autonomous:自動運転化」、「Shared/Service:シェア/サービス化」、「Electric:電動化」の4つを指すが、これらの中でも「自動運転化」は、他の3つの動きと相互に関連しながら、全体を牽引する中心的な力になっているように思える。そして、この自動運転化は、自動車産業だけではなく、今後、わたしたちの生活をも大きく変化させていくことになる。
 私は、2019年から、技術・企業・国際競争力研究センターの一員として、「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第2期/自動運転(システムとサービスの拡張)」において実施されている内閣府(管理法人:国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構委託)「自動運転による交通事故低減等へのインパクトに関する研究」(2018年度-2021年度)に従事してきた。また、昨年度からは、モビリティ研究センターにも参画して頂き後継プロジェクトである「自動運転による社会・経済に与えるインパクト評価と普及促進策に関する研究」に従事している。これらの研究は、東京大学モビリティ・イノベーション連携機構と共同で推進しているもので、交通事故の低減、交通渋滞ならびにCO2排出の削減、物流・移動サービスにおけるドライバー不足の改善とコスト低減といった日本社会の課題に対して、自動運転がどのような貢献ができるのかを、経済モデルを構築して定量的に示すことを目的としている。2021年度に終了した研究の報告書は、SIP-adusのwebサイトにも掲載されているのでご関心があればご覧いただきたい(NEDO, 2021)。
 ところで、これらの研究は、インパクトを定量化することに重点を置いたこともあり、インパクトの分析対象領域は、上述した日本社会の課題が中心になっている。しかし、自動運転のインパクトは、こうした領域を遙かに超えて広がっている。たとえば、ドライバー不要の自動運転車が実現し社会に普及すれば、都市の姿やわれわれの生活スタイルは大きく変化する可能性がある。ドライバーが、運転から解放されて、自動車での移動中に仕事ができるようになれば、極端なことをいえば、車は自宅やオフィス空間に近い空間となり、移動時間は生産的な時間となる。このため乗員は、移動時間を短縮したいとはあまり思わなくなるだろう3。この結果、人々は郊外に移住し都市の外延が生じる可能性がある。また、ドライバー不要の自動運転車が実現できれば自動運転タクシーが登場するが、タクシーにはドライバーに替わって利用者の手助けしてくれる人が乗車し、私たちの家の前まで迎えに来てくれることになるかもしれない。このように、自動運転は、われわれの生活を大きく変化させる可能性を持つのである。
 こうした考え方の下、今回、第1回「モビリティを活用したビジネス・イノベーション・コンテスト~君のアイデアで加速する未来の社会と自動運転~」を東京大学モビリティ・イノベーション連携機構と同志社大学モビリティ研究センターの共催で開催することとなった。

 このコンテストは、生活や企業活動を変革する、自動運転技術を使ったビジネス提案を競うものである。技術に対する専門的な知識は求めておらず、自動運転という新しい技術を、よりよい未来社会につなげていこうとするアイデアを競う。既存の法制度の中では実現できない大胆なアイデアも提案可能である。政策学部生にはふるって参加して頂きたい4。チームは、政策学部生だけで編成する必要はなく、学部横断的でも大学横断的なものでも良い。京田辺校地の大学院生・学部生とのコラボレーションも面白い。
 なお、このビジネスコンテストは、2022年10月11,12日に本学寒梅館で開催されるSIP-adus Workshop 2022のサイドイベントとして開催される。このSIP-adus Workshopは、自動運転に関する日本の国際会議であり、内外の研究者、技術者、政策形成者が集い、情報交換と議論が行われる。専門的な議論に関心があれば、こちらにも参加していただきたい。


1 CASEは、ダイムラーAG・CEOでメルセデス・ベンツの会長を務めるDr. Dieter Zetscheが、2016年のパリモーターショーにおいて発表した中長期戦略の名前である。
2 トヨタ自動車の豊田章男代表取締役社長兼執行役員社長が述べた言葉である(トヨタ自動車株式会社「役員体制の変更、組織改正、および人事異動について」(2017年11月28日) https://global.toyota/jp/detail/19944468 参照)
3 学術的には「交通の時間価値」の減少とよばれる現象である。自動運転による交通の時間の減少については、Kolarova et al.(2018) 等の実証研究がある。
4 ビジネスコンテストの詳細を記載したurlは、以下の通りである。参加申し込みもこのurlから可能である。
https://park.itc.u-tokyo.ac.jp/m-bic/2022

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参考文献

国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第2期/自動運転(システムとサービスの拡張)/自動運転による交通事故低減等へのインパクトに関する研究」(委託先:国立大学法人東京大学、学校法人同志社)、2021年5月、https://www.sip-adus.go.jp/rd/rddata/rd04/302.pdf

Kolarova V., Steck F., Cyganski R., Trommer S., 2018. Estimation of the value of time for automated driving using revealed and stated preference methods, Transportation Research Procedia, 31, pp. 35-46.