同志社大学 政策学部

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政策学部講演会特集

政策学会講演会(レポート)
『市民の力でセーフティネットの穴を修繕する』

テーマ『『市民の力でセーフティネットの穴を修繕する
講師稲葉 剛 氏
日時2020年6月16日(火) 16:40~18:10
会場Zoom/YouTube Liveにて開催

1) 公開講演会概要
2020年6月16日(火)に 同志社大学政策学会講演会「市民の力でセーフティネットの穴を修繕する」
をオンライン(ZOOM会議/YouTube Live)で開催しました。こちらは、政策学部NGO・NPO論(担当:佐野淳也)のゲスト授業を一般公開する形で実施されました。授業の受講生383名に加え、セーフティネットや格差・貧困問題にご興味を持つ一般参加者や、同志社大学の他学部の学生や院生も多数オンライン参加しました。
講師は、1994年より東京・新宿を中心に路上生活者支援活動に取り組んできた稲葉 剛(いなば つよし)さん。2001年、湯浅誠氏と共に自立生活サポートセンター・もやいを設立し、幅広い生活困窮者への相談・支援活動を展開されてきました。2011年より生活保護制度の改悪に反対するキャンペーンに本格的に取り組み、2014年には一般社団法人つくろい東京ファンドを設立。現在は立教大学大学院21世紀社会デザイン客員教授として貧困・社会的排除問題を講義しつつ、空き家・空き室活用による低所得者支援の事業化に取り組まれています。
【参考】稲葉剛公式サイト

2)講演の主なポイント
講演の中で、稲葉さんは「住居を失い、住民票を喪失することは、様々な公的サービスから排除されること」と指摘します。稲葉さんが代表を務める一般社団法人つくろい東京ファンドでは、2020年3月時点、都内25室を借り上げ、生活困窮者向けに住宅支援を行っています。
【参考】つくろい東京ファンド
「屋根がない状態」を意味するホームレス状態だけでなく、ネットカフェ難民など「屋根はあるが、家がない状態」や、「家はあるが、居住権が侵害されやすい状態」も含め、安定した住まいを喪失している人々全体を指して、稲葉さんは「ハウジングプア」状態だと捉えます。ネットカフェ等に寝泊まりする「住居喪失者」に関する2017年の東京都調査では、住居喪失者の約半数が20~30代であり、平均月収は11.4万円、また困ったことや悩み事を相談できる人は「いない」と答えた人が41.3%に上ってます。
コロナ禍はそうしたハウジングプアの状態にある人たちを直撃し、2020年4月8日の「緊急事態宣言」後の1ヶ月半で、つくろい東京ファンドには「携帯も止められ不安でいっぱいです。もう死んだ方が楽になれるのかなと思ってしまいます」といった約170件ものSOSが届いたとのこと。こうした状況に対し、稲葉さんは「住居は人権」であり、住居喪失者に対し住宅を無条件で提供する「ハウジングファースト」の視点に立った居住福祉政策が重要であると説きます。
そしてコロナ危機は「災害」であり、住宅危機にある人を「自己責任」だとして切り捨てることは、私達の社会そのものを危ういものにすると、稲葉さんは訴えます。今まさに「私たちがどのような社会を選択するか、が問われている」との言葉で、講演は締め括られました。
【講演内容を記録したグラフィックレコード】(作:有廣 悠乃さん)
グラレコ1
グラレコ2
グラレコ3

3)受講学生及び一般参加者からの感想
受講学生たちからは、稲葉さんの講演に対し「人間誰しもに住居があることは必要であると思いました。そして、いちばん良いと思ったのが、本人に決定権があるということです」「同じ社会で生きているなかで自己責任であるからと放置するのは違うと思う。無視せず何か解決策を考えなければならない」といった多くの感想が寄せられました。
また一般参加者の方からも「市民組織による長年に渡るホームレス支援が確実に制度化につながっていることが改めてよく理解できました」「緊急事態宣言下で、ネットカフェなどに休業要請が出ていましたが、暮らす人々などにとってはそこが居場所であり、一元的に密だからだめだと切り捨ててしまったことが悲惨な結果を生んだことに気づきました」といった感想がありました。
また広く一般参加を可能にした今回の公開オンライン講演会形式に対しても、一般参加者から「公開授業の内容はとても有意義で、一般参加させていただけることは、とてもとても贅沢で有難いことだと思い感謝しています」の声や、また受講学生からは「グループセッションで、社会人の方とお話できたことが良かった」との声がありました。

同志社大学新町キャンパスには、創設者の新島襄「諸君ヨ、人一人ハ大切ナリ」のことばが刻まれています。これは1885年の同志社創立10周年記念演説の中で、新島が彼の不在中に退学処分に処せられた7人の学生のことを想い、発した言葉であるとの逸話が残されています。
「自己責任」だとして決して人を切り捨てることのない社会。今回の公開講演会の中で稲葉さんが強調したこのビジョンは、まさに新島の言う「一人ハ大切ナリ」の精神そのものであり、同志社人として胸に刻まねばならない思想でもあります。改めて、大学としての存在意義に立ち返る、貴重な学びを得た講演会でした。

(政策学部准教授 佐野 淳也)

稲葉 剛氏