政策学部講演会特集
政策学会講演会(レポート)
『「さとのば大学」から始まる未来 ~地域を旅する学びのコミュニティ』
テーマ | 『「さとのば大学」から始まる未来~地域を旅する学びのコミュニティ』 |
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講師 | 信岡 良亮 氏 |
日時 | 2019年12月3日(火) 16:40~18:10 |
会場 | 新町キャンパス 臨光館(R207) |
1)講師紹介
(株)アスノオト代表取締役である信岡良亮氏は1982年大阪府生まれ、2005年に同志社大学商学部を卒業している。東京でのITベンチャー企業勤務を経て、島根県隠岐諸島の海士町(あまちょう)に移住し、2008年に株式会社「風と土と」(旧名:巡の環)を共同で起業。6年半の海士町での生活を経て、都市と農村の新たな関係を築くため、2014年5月より東京に活動拠点を移し、大学での講義など情報発信を積極的に行っている。
2015年より株式会社アスノオト創業、2019年より地域を旅する大学プロジェクト「さとのば大学」構想を発起し、中心的に運営している他、ビジネス・ブレークスルー大学非常勤講師も務めている。また共著書に「僕たちは島で、未来をみることにした」(木楽舎)がある。
2)さとのば大学
2019年4月に新しく生まれた「さとのば大学」(https://satonova.org/)は、キャンパスは存在せず、好きな場所で学び、実践し、暮らすことができる、まさに旅する大学である。島根県海士町、岡山県西粟倉村、宮城県女川町、宮崎県新富町という地域創生をリードする4つの町を舞台に、地域を1年ごとにめぐり「暮らしながら」学ぶ実践の場が用意されている。
従来の「インプット型の学び」ではなく、実学はオンラインで学び、プロジェクトを通して「実践的に学ぶ」ことで、自分にとっての正解を探っていくのがその特徴となっている。同じ未来を描く仲間や地域とともに”冒険”し、「本当に自分がやりたいこと」を仲間とともに挑戦していくという、究極のプロジェクト型学習の場が用意されている。現在はまだ文科省認定を受けておらず、市民大学プロジェクトとしてスタートしており、2025年に正式な大学院大学となることをひとつの目標としている。
3)印象的な講演内容
当日の講演の中で、いくつか信岡氏より印象的な言葉があったので、以下に紹介したい。
「年収が上がること=キャリアアップでない。お金をモチベーションとした働き方でなく、『仮説→実践』を繰り返すことで仕事や人生を楽しんでいくモチベーションを持つことが重要。それがこれからの良い働き方だ」
「自立とは、依存先を増やすこと。複数の依存先を持つことで、人生のセキュリティにもなる。ひとつの会社やコミュニティにのみ依存する生き方はもはや時代遅れ」
「そしてこれからは、新卒で入社した会社に定年までいる人はごく少数となる。時代が激しく変化する中、常に自分の専門性を仕事をしながら同時並行して磨き、自主的に学んで次のキャリアシフトに移行していくことが重要である。その意味で、一生勉強する時代である」
以上からは、より複雑化する時代において、終身雇用などの日本型雇用システムにこだわることなく、常に自分のスキルを時代に合わせ磨き、人生の中で何度もキャリアチェンジをしていくことに備えることの重要性が説明された。
また、さとのば大学は地方や田舎で起業したりまちづくりを行う人材を増やし、これからの日本が地方分散型社会になっていくことをひとつのビジョンとしているが、その中で以下の発言も印象的だった。
「無条件に自分を肯定する自分肯定感と、自分は社会に貢献していると感じる自己有能感の両方が大事その意味では、その他大勢の中に埋没しにくい田舎や地方の方が、社会やコミュニティへの貢献実感を感じやすい」
「都会では生活や学習にお金がかかることが多い。また起業するにも事務所代などのコストが多くかかる。いっぽう、自分がいた海士町など田舎はその点のハードルが低く、社会関係資本の中で様々なサポートを受けることにより、実は行動を起こしやすい環境がある」
「東京を含め都市は飽和状態にあり、伸びしろがないから、これからはむしろ新たなフロンティアとして田舎に目を向けることが重要。自分で必要なサービスや活動をどんどん作り出して地域のニーズに答えていけるというおもしろさが地方にはある」
「起業をするような人はスティーブ・ジョブズのように大きなビジュンを持っていないといけないというイメージがあるが、必ずしもそうではない。地域の資源をコーディネートする編集者型だったり、地域のお困りごとに答える奉仕型など、様々な起業家タイプがあり、自分にあった起業スタイルを選べばいい」
4)学生たちの感想
参加した学生たちからは、以下のような感想が寄せられた(抜粋)。
・元々、勉強をするのが強制的で苦痛でした。でも今日の話を聞いて、何故自分が勉強が嫌いなのか理解することができました。勉強したことが社会にインパクトを与えることができるのならばきっと楽しいのだろうと感じました。
・将来したいことが自分の言葉で話せるほど明確ではない。けれど、社会人になって一つの会社の居場所だけでなく、自分の居場所と感じられる所が多くあればと思うし、そのような場所を他の人にも提供できる人になりたいと思っている。
・「学力があるだけでは生きていけない」ということは最近すごく自分自身も実感していて、自分のやりたいこと、自分自身について話すことができなければ意味がないなと最近就活をしていて感じる。常に自分を磨き続けるための自己投資をできる生き方をしたいと思った。
・信岡さんのように自分自身の考えで人生を決められる芯のある人になりたい。もう一度「自分で人生を選択する」ということについて考え直したい。
・自分の田舎に帰ろうかどうか迷っていたが、田舎にもたくさんの可能性がある実感を持つことができ、希望が湧きました。
学生たちは、自ら起業して新たな学びの事業を立ち上げた信岡氏の生き方に大きな影響を受けたようであった。また一般の参加者も多く来場し、大変有意義な講演会であった。
(政策学部 准教授 佐野 淳也)

佐野 淳也(政策学部准教授)