同志社大学 政策学部

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政策学部講演会特集

政策学会講演会(レポート)
『ユーラシア大陸主義の深化:アメリカのグローバルな役割への含意』

テーマ『ユーラシア大陸主義の深化:アメリカのグローバルな役割への含意』
講師Kent E. Calder (ケント カルダー) 氏
日時2019年11月25日(月) 16:40~18:10
会場烏丸キャンパス 志高館(SK110)

去る11月25日、同志社大学政策学会およびアメリカ研究所の共催講演会の講師として、ジョンズホプキンス大学高等国際関係大学院大学(SAIS)副学長兼ライシャワー東アジア研究所所長であるケント・カルダー教授(Kent E. Calder)をお迎えし、「ユーラシア大陸主義の深化:アメリカのグローバルな役割への含意(Deeping Eurasian Continentalism: Implications for America’s Global Role)」という演題でお話しいただいた。
カルダー教授は、駐日米国大使補佐官や米国国際問題研究所(CSIS)日本部長、ハーバード大学日米関係プログラム初代事務局長、プリンストン大学ウッドローウィルソン政治大学院教授など多岐に及ぶ経歴を有する。著書『新大陸主義――21世紀のエネルギーパワーゲーム(The New Continentalism: Energy and Twenty-First-Century Eurasian Geopolitics)』の続編にあたる『スーパー大陸――ユーラシア統合の地政学(Super Continent: The Logic of Eurasian Integration)』を11月に刊行され、ユーラシア大陸の統合をめぐる新動向についての研究成果とその含意を、詳細なデータをもとにしたスライドとともに語られた。
カルダー教授は、同著において、現在、ユーラシア大陸において中国とヨーロッパの通商、物流、国際協力は飛躍的に増大していると指摘している。今回の講演では、ユーラシア大陸にみられる以下に述べるような4つの統合の論理を解説された。1つに、地政学的にユーラシア大陸において中国が中心部に位置することが、中国による国際秩序形成に寄与しているという論理。中国の西部国境線から、東欧と上海まで、およびホルムズ海峡と北京まではそれぞれ同距離である。2つに、ユーラシア大陸内では、ガスパイプラインと石油供給を通したエネルギー相互依存関係が深化しているという論理。3つに、ユーラシア大陸では、鉄道の伸長や港の建設が物流を変化させ、統合に作用しているという論理。アメリカの大陸横断鉄道やパナマ運河がアメリカ大陸の物流を変化させたことを想起させると述べられた。4つに、ユーラシア大陸におけるファイナンスの新展開の論理である。アメリカを中心としたブレトン・ウッズ体制から、中国を中心としたアジア・インフラ投資銀行への移行などにこの論理がみられると指摘された。
これらから導かれる新世界秩序は、ルールに基づかない、部族的かつ分配的な地域主義をベースにしたグローバリズムであるという。中国は伝統的な価値観でもって利益を分配する見返りに尊重されることを求めるが、知的財産の取扱いやルールに基づく国際関係の構築などが中国自身にもとめられると指摘された。また、アメリカも食料自給率とシェール革命を経たエネルギー自給率の飛躍的向上、そして技術革新という強みを有するため、関税摩擦とは別次元で中国の新世界秩序形成への関与が依然としてもとめられるともおっしゃられた。
 逐語通訳のため時間が限られたものの、講演の開始から終わりまで、参加者は非常に熱心に聞き入り、講演後も質問の行列が続いた。参加者のバックグラウンドも、政策学部教員や学生はもとより、省庁関係者、金融関係者など多岐にわたった。
(政策学部助教 松本 明日香)

カルダー教授