同志社大学 政策学部

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政策学部講演会特集

政策学会講演会(レポート)
『いま、地方で何が起こっているのか ~崩壊と再生の現場から』

テーマ『いま、地方で何が起こっているのか ~崩壊と再生の現場から』
講師神田 誠司 氏
日時2018年12月4日(火)16:40~18:10
会場新町キャンパス臨光館(R207)

 朝日新聞記者の神田誠司氏をお招きし、12月4日に公開講演会を行った。これは同志社大学政策学部「政策トピックス〜しあわせな人口減少社会のデザイン」(担当:佐野淳也)の公開授業として実施した。
 神田氏は1983年に朝日新聞社に入社し、その後大阪本社社会部で地方行政を担当。さらに東京本社政治部で首相官邸や自治省(当時)を担当し、2005年からは大阪本社で地方分権・地方自治担当の編集委員を務め、現在は地域報道部記者をされている。
 関心分野は、まちづくり、地方再生、地方議会、地方移住、貧困と格差などであり、著書に『釜ケ崎有情』(講談社)、共著書に『今、地方で何が起こっているのか』(公人の友社)がある。
 また近著として、多彩な移住者が集まる地方再生先進地・徳島県神山町にてまちの未来をつくる100人以上のプレイヤーを取材した『神山進化論 ~人口減少を可能性に変えるまちづくり』(学芸出版社)があり、今回はその神山町の地域づくりの特徴について中心的にお話いただいた。

1)地方衰退の要因と地域づくり先進地の共通点
神田氏は、これまで数10箇所の地域を取材した経験から、共通する地方衰退の要因として「生産年齢人口の減少と第一次産業の低迷による縮小のスパイラル」があると言う。
いっぽう、地域づくり先進地の共通点として、以下の6つがあると説く。
①ヨソ者、バカ者、若者の熱
②仲間をつくり、周りを巻き込む:他人事でなく自分事にする
③地域の資源(宝)を発見し、磨く
④継続はチカラ:いっときの盛り上がりに終わらせない
⑤地域外にファンをつくる:評価される喜び、交流人口
⑥可能性を感じる場所に人は集まる:開かれた雰囲気、何かができそうな雰囲気
『神山進化論』(学芸出版社)

『神山進化論』(学芸出版社)

2)神山進化論 ~人口減少を可能性に変えるまちづくり
 以上に述べた地域づくり先進地の複合形が、徳島県神山町の事例だと神田氏は言う。 神山町は人口約5300人の山村であり、「消滅可能性都市」のひとつにも挙げられている。しかし2008年からの8年間で161名の移住者があり、ウェブデザイナー、アーティスト、靴職人、 パン屋など手に職を持つ若者が町に定住している。
 さらに2011年よりIT企業のサテライトオフィスが町に進出し、現在16社にのぼる。その結果、 視察者が3年間に1000団体、約6500人となり、地方創生のモデル地域となった。
 その背景には、地元のNPO法人「グリーンバレー」の存在がある。国際交流やアーティスト・ イン・レジデンスの活動から始まったグリーンバレーは、その後移住交流支援事業を町から 委託されるようになり、手に職を持ったクリエイティブな移住者を多く町に呼びこむことに成功した。
 サテライトオフィスを開いたあるIT企業の経営者は、その理由として以下があると述べている。
①高速のネット環境(光ファイバー)
②ヨソ者を受け入れる雰囲気
③地元との仲介役をしてくれるグリーンバレーの存在
④東日本大震災による本社機能分散の流れ
⑤「ゆるさ」が決め手
 その結果、多様な人材が町に集まるようになり、「東京より刺激的」「毎日が異業種交流」と言われるようになった。また、移住者が地域のためのビジネスを起こすようになり、「止まっていない町、ワクワクする町」と表現される場所へと進化していった。
 しかしその背景には、まちづくりを引っ張ってきたNPO法人グリーンバレーの高齢化などの危機があった。2015年の地方創生戦略づくりで、町とグリーンバレー、移住者が一体となり、一から住民の手で地域の未来計画をつくることに挑戦した。そのプロセスにおいて、描いた夢を必ず実現する主体を町内につくり、それを町が責任を持って支える仕組みが作られた。
 それにより、NPO主導からオール神山のまちづくりに転換し、基幹産業である農林業再生への挑戦が可能となった。「地域内経済循環の仕組みづくり」の思想に基づき、現在以下の主要プロジェクトが神山町内で進行している。
①フード・ハブ・プロジェクト(有機農業、小さな生産と小さな消費をつなぐ)
②大埜地共同住宅プロジェクト(林業再生、町産材でつくる、まちの人が建てる)
③教育改革プロジェクト(地域の農業高校の再生)
3)まちおこし、地域づくりが目指すもの
 結論として、神田氏は神山町が進化する理由として、以下の5つを挙げた。
①プロセスを大切にしている=単なる過程でなくそれ自体が重要
  • 自分事と考える住民が増え、思わぬ展開が生まれる
  • 根を張り、幹を茂らせることが出来る
②「つなぐ」ことに着目した
③神山つなぐ公社という中間支援組織の存在
④町役場の実現するという覚悟
⑤土台となる多様な住民
 そして最後に、「まちづくりという言葉に違和感がある。土を耕したら、勝手に生えてきた。そんな感じなんよな」という、神山町のまちづくりのリーダーである大南信也氏のことばを引用し、講演は締めくくられた。

4)学生たちの感想
 参加した学生たちからは、以下のような感想が寄せられた。

  • 大切な事は「地域内に欠けている外部視点を持ち、若者のようにリスクを恐れず前向きに行動を起こし、今までの常識や前提を覆す」こと。そのような人材は、体系的な教育を通して育成することも可能だ。
  • 「計画を作ると共に主体性も作る」という言葉に衝撃を覚えた。人任せにせず、自分の問題として解決する主体をつくっていくことが、地域づくりにおいては重要だと気づいた。
  • 「どれだけ多くの人を巻き込めるか」ということが重要。地域を作っていく過程を大事にして、わかりやすく可視化することで、地域外の若者を引き寄せる誘因にもなる。
  • まちづくりに関わると「とてつもなく魅力的な人達に出会える。それが癖になる」との神田さんの言葉が印象に残っています。

 神田氏の豊富な取材経験に基づく、リアルな地域創生プロセスの物語に触れ、学生たちは地域づくりの本質に触れることができたようだ。一般の参加者も多く、大変有意義な講演会であった。

(政策学部准教授 佐野 淳也)

政策学会講演会(レポート)『いま、地方で何が起こっているのか ~崩壊と再生の現場から』