政策学部講演会特集
政策学会講演会(レポート)
『宇宙航空研究開発機構と科学技術政策の実際』
テーマ | 『宇宙航空研究開発機構と科学技術政策の実際』 |
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講師 | 宮崎 英治 氏 柳瀬 恵一 氏 |
日時 | 2019年1月17日(木)14:55~16:25 |
会場 | 新町キャンパス尋真館(Z40) |
去る1月17日、政策学会講演会に講師として国立研究開発法人・宇宙航空研究開発機構(JAXA)の宮崎英治氏(研究開発部門・主任研究開発員)、ならびに柳瀬恵一氏(研究開発員)のお二人をお迎えし、「宇宙航空研究開発機構と科学技術の実際」というタイトルでお話いただいた。宮崎氏は宇宙開発事業団時代の1998年から、柳瀬氏は2007年からJAXAの研究員としてロケット打ち上げ関係の技術開発と研究に携わってこられたが、近年、国立研究開発法人の「法人評価」にも関わられ、その枠組みに関してご苦労されてきた。
お話はまず宮崎氏が、JAXA全体の業務、組織体制とその歴史、最近の業務実績等について紹介された。つぎに柳瀬氏がJAXAにおける研究と技術開発、そして法人評価との関係について難しい課題があることを実例を挙げて説明された。難しさの原因は研究(science)と技術開発(technology)は違うこと、また理科系の科学者と技術者が法人評価(evaluation & measurement)に関わることの悩みである。悩みの原因は以下の5点である。①日本の科学技術振興「政策」が文部科学省、総務省(旧郵政省)、経済産業省、内閣府、防衛省の共管になっていることが政策評価をはじめとする業務の錯綜、重畳化を招いている。②政策目標を達成する手段である事業を現場で展開するミッションが各種の研究開発法人、民間企業、そして大学などの間で複雑に絡み合っている。③巨額の研究開発費が投入されているためアカウンタビリティ確保の業務が多く付随している。④アカウンタビリティ関連業務は「評価」であるが、ひとことで評価と言うものの、目的や方法が違った評価が監査(audit and inspection)に紛れて混在している。⑤評価(evaluation)実践に不慣れな理科系の研究者が日々取り組まざるを得ない。これら5つがJAXA研究者の労力を消耗させ、日本の科学研究と技術開発を停滞させる恐れがある。
「理系・文系の区別はおかしい」「理科系と文科系の区別が日本の科学技術政策を誤った方向に誘導している」、いまや陳腐化したこの言説が深刻な事態を招いている実例がこの講演で確認された。この深刻な事態を改善するためにサイエンス・コミュニケーター制度、文部科学省が全国の高校を対象に行っているSuper Science high-school認定、小中学校へのJAXA研究者の派遣・模擬授業などがある。そして政策論と評価論に関しては、政策学部のような学部での取り組みもまた必要であることに気づかされた講演であった。
(政策学部教授 山谷 清志)

