政策学部講演会特集
政策学会講演会(レポート)
『スポーツを通した平和構築:南スーダンの事例から』
テーマ | 『スポーツを通した平和構築:南スーダンの事例から』 |
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講師 | 大野 康雄 氏 |
日時 | 2018年1月11日(木)10:45~12:15 |
会場 | 新町キャンパス臨光館(R207) |
1月11日、開発コンサルタント企業である株式会社JINの代表取締役・大野康雄氏をお迎えし、「スポーツを通じた平和構築:南スーダンの事例から」というタイトルでご講演をいただいた。大野氏は青年海外協力隊員を経て農業・農村開発のコンサルタントとしての実績を積み、2011年に株式会社JINを設立された。「開発コンサルタント」というと外からさまざまな助言をする専門家のようにきこえるが、大野氏は現地の泥にまみれて汗を流しながら、人々と共に解決策を模索する「開発ワーカー」である。豊富なご経験のなかから、今回は特に、現在進行形で従事されている南スーダンの平和構築事業についてお話を伺った。
長い内戦を経て2011年に独立を果たした南スーダンは国際社会の耳目を集め、復興に向けて多くの援助プロジェクトが実施されてきたが、2013年と2016年に大規模な戦闘が発生し、外国の援助関係者らは退避を余儀なくされた。伝統的な部族間の対立や政治・経済的な利権をめぐる争いのために治安は極端に悪化しており、2018年1月現在も、国際協力機構(JICA)職員や大野氏は南スーダンに立ち入ることができず、隣国ウガンダからの遠隔支援を行っている。紛争の記憶に基づく憎悪や、「別の部族の青年は怖い」、「首都に行くと殺される」といった噂が広がり、民族間の融和はなかなか進まない。
では、このような国において、スポーツ振興を通じて平和構築に寄与することは可能なのだろうか。 大野氏らはJICAのODA事業として、南スーダンで「国民結束の日」と題する、建国以来もっとも大規模な若者向けスポーツ大会の開催を支援した。このイベントは日本や隣国ウガンダの経験から学んだ南スーダンの行政職員らが自ら企画したものであり、各地から集まった若者たちは、部族や出身州の違いを超えて交流することができた。南スーダン政府が作成した当日のドキュメンタリー映像では、参加者らが生き生きとサッカーや短距離走に熱中する様子、政治家が平和の重要性について熱弁を振るうシーンが印象的であった。
しかし果たして、これは開発プロジェクトの「成功」なのだろうか。スポーツ大会の開催は一時的な高揚感を生むかもしれないが、スポーツ大会の開催が本当に、南スーダンの長期的な紛争予防に繋がるのだろうか。(そして、この大会を日本政府が公金を使って支援しつづけることにいかなる正統性があるのだろうか。)そもそも、「平和構築」が成功したかどうかは、何をもって判断することができるのだろうか。大野氏はこのような本質的な問いを提示されたうえで、それでもなお、スポーツは戦争で荒廃した人々の心に希望や一体感や夢を与えることができると信じ、周囲を説得しうる論拠を積み重ねる必要があると述べられた。
筆者も2012年に、日本のNGOの職員として、JICAの委託事業として、南スーダンの若者の社会復帰を通じた平和構築事業に従事した。手に職をつけたいと望む青年たちにレストランの調理や接客といった職業訓練を提供したが、紛争のために幼少期にじゅうぶんな教育を受けられなかった青年らはすぐに喧嘩を始めてしまう。我々の雇用した現地のNGO職員みずからが部族対立を煽ることもあった。職業訓練を受けた青年たちの意識の変化を客観的に判断したいと思ってアンケートや面談を実施したが、外国からの援助に慣れている彼らが「日本のおかげで平和の重要性について学びました」、「対立は良くないことだと思います」というような「援助機関ごのみ」の回答をする姿に、平和構築事業の効果を測定することの困難さを思い知らされた。 本講演会は、国際経済、国際協力政策、スポーツ法学の3分野の教員の合同企画によって実施し、参加者の多くは、国際協力に関心を持つ学生であった。大野氏が、開発プロジェクトの輝かしい面だけでなく、現場で直面したさまざまな問題や小競り合いの実態、そして開発援助の抱える根本的な課題を非常に率直にわかりやすく述べてくだったことは、受講生にとって非常に貴重な機会となった。
(政策学部助教 木場 紗綾)


木場 紗綾(政策学部助教)
参考ウェブサイト
独立行政法人日本国際協力機構(JICA)「南スーダン、独立後初めての全国スポーツ大会―テーマは『平和と結束』、地域や民族越えフェアプレー」
在南スーダン日本国大使館
「南スーダン通信 第10回 平和と結束のためのスポーツ」
株式会社JIN