同志社大学 政策学部

政策最新キーワード

高齢者が引き起こす交通事故は増えているのか?

投稿者 三好 博昭:2020年10月1日
投稿者 三好 博昭:2020年10月1日
 最近、高齢者が起こす交通事故が社会問題となっている。東池袋で2019年4月に発生した車両暴走事故がその象徴的な出来事であろう。この事故は、高齢ドライバーがブレーキとアクセルを踏み間違えて生じたものとされており、横断歩道を歩いていた母子2人が死亡、このドライバーを含む8人が重軽傷を負っている。
 高齢者の人口が増加しているのであるから、高齢者の引き起こす事故が増えるのは当然の事象のように思えるが、事実は一体どうなっているのだろうか? ここでは、交通事故データによって実態をみてみよう。
 以下の2つの図は、高齢者の原付以上運転者が第1当事者となった事故の時系列推移を示している。ここで原付以上運転者とは、自動車、自動二輪車及び原動機付自転車の運転者を指す。また、第1当事者とは、交通事故に関与した車両等の運転者又は歩行者のうち、当該交通事故において過失が重い方を、過失が同程度の場合には人身損傷程度が軽い方を指す。このため、高齢者が第1当事者の事故は、必ずしも高齢者が引き起こした事故とは言えないが、ここでは、高齢者が引き起こした事故を、高齢者が第1当事者の事故で近似して議論を進める。
 図1をみると、一般的の感覚から少し乖離した実態が浮かび上がる。折れ線は、65歳以上の運転者が第1当事者の事故、75歳以上の運転者が第1当事者の事故の件数を示すが、どちらをみても件数自体は減少傾向にある。一方、棒グラフは、65歳以上の高齢運転者が第1当事者となった事故の割合、75歳以上の高齢運転者が第1当事者となった事故の割合を示している。65歳以上の高齢運転者が第1当事者となった事故の割合は10年前の2009年には約15%であったが、10年後の2019年には23.3%となっている。75歳以上の高齢運転者が第1当事者となった事故の割合は.4.6%から8.5%と、2倍弱に増加している。以上から、「高齢者の起こす事故は増加するどころかむしろ減少している。増加しているのは、交通事故全体に占める高齢者の引き起こす事故の割合である」というのが正しい認識といえよう。

図1:高齢者の原付以上運転者(第1当事者)の交通事故件数


出所:警察庁交通局「令和元年中の交通事故の発生状況」の表3-1-2を用いて作成
図1:高齢者の原付以上運転者(第1当事者)の交通事故件数

 ところで、どうして、高齢者の引き起こす事故の割合が増加しているのであろうか?図2はその要因を分解したものである。図2の折れ線は、原付以上運転者(第1当事者)の交通事故件数に占める65歳以上運転者の交通事故件数の割合の対前年変化率を示し、たとえば2010年では、+2.8%となっている。理論的な説明は割愛するが、この変化率は、次の2つの変化率の和として近似できる。
1) 免許保有者に占める65歳以上の割合の対前年変化率(棒グラフの青色部分)
2) 65歳以上免許保有者10万人あたりの65歳以上原付以上運転者(第1当事者)の交通事故件数対前年変化率-免許保有者数10万人あたりの原付以上運転者(第1当事者)の交通事故件数対前年変化率(棒グラフの黄色部分)
 2番目の変化率は、要は、単位免許保有人口当たりの事故件数が、65歳以上の高齢者と日本全体とでどの程度異なるのかを示し、この値がプラスであれば、65歳以上における単位免許保有人口当たりの事故件数の変化率が、日本全体のそれを上回ることを意味する。実際のところ、65歳以上における単位免許保有人口当たりの事故件数の対前年変化率は、分析期間中の数値はすべてマイナスなのだが、このグラフで2番目の変化率が2011-2013年以外プラスとなっているのは、この絶対値を上回るペースで日本全体の単位免許保有人口当たりの事故件数が減少していることを意味している。
 結論として次のように言えよう。高齢者の引き起こす事故件数の全体に占める割合が増加しているのは、免許保有者に占める65歳以上の割合の増加の影響が大きいが、ここ3年を見る限り、65歳以上における単位免許保有人口当たりの事故件数の減少率が、日本全体のそれを下回っていることにも大きく起因している。

図2:原付以上運転者(第1当事者)の交通事故件数に占める


出所:警察庁交通局「令和元年中の交通事故の発生状況」の表3-1-2並びに警察庁交通局「運転免許統計」各年版の「年齢別・男女別免許保有者の前年比較」を用いて作成
図2:原付以上運転者(第1当事者)の交通事故件数に占める65歳以上高齢者の事故件数の割合変化の要因分解