同志社大学 政策学部

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パートタイマー等の老後保障

投稿者 井上恒男:2020年3月1日
投稿者 井上 恒男:2020年3月1日
 雇用形態の多様化が進み、雇用者の3分の1強、特に女性は半数以上がパートタイマーとして働いているが、今年の公的年金の改正の一つの柱として、パートタイマーへの厚生年金適用の拡大が行われようとしている。会社等に勤めていても週の所定労働時間が20時間以上(年収106万円以上)でなければ厚生年金に加入できないので、現在これらパートタイマーは老後に厚生年金は受給できず基礎年金のみである。

 このような厚生年金のパートタイマーへの限定適用には、かねてから見直しが求められていた。会社勤めをしていても働き方の違いよって公的年金制度の適用が異なり老後保障に大きな差がある、一方で厚生年金の保険料負担を回避するため事業主やパートタイマーが雇用調整を行っている、また、配偶者が厚生年金加入者であって本人は限定的雇用のパートタイマーや専業主婦はいわゆる3号被保険者となり年金保険料を納付しなくても自分名義の基礎年金を受給でき優遇されている、など様々な批判があったからである。

 長年の議論を経てようやく平成28年10月から現在のような仕組みになったが、小売業界等からの慎重論が強かったため、従業員が501人以上の事業所に限定し(当初想定していた450万人規模に対し40万人への適用)、順次拡大していくこととなった。今回も慎重論は根強くあるが、従業員規模を段階的に縮小していくこととなりそうであり、パートタイマー等の老後保障にとって望ましいき姿に近づきつつあるといえよう。

 とはいえ、今の路線で拡大の視野に入っているのは一定の労働時間要件と収入要件を満たしている者までである。さらに将来その要件を下げていこうとすると国民年金の保険料(月額16,410円)よりも低い保険料負担で厚生年金と基礎年金が受給可能という新たに不均衡な現象が発生することから、年金制度全般にわたるしっかりした検討のため時間がかかるかもしれない。また、厚生年金適用の要件をどこまで拡大していっても、無職だった者や自営業者が受給できるのは基礎年金のみという状況は変わらない。

 このように厚生年金の適用拡大路線だけでは老後保障対策に限界がある中で、今から備えておかなければならないのは、もう一つの基礎年金(国民年金)の水準低下である。昨年は5年に1度の年金の財政検証が実施された。現在の公的年金制度では、これまで以上の保険料負担増を現役世代に期待することは困難という判断から年金保険料負担の上限を設定し、マクロ経済スライド調整という方式で給付水準の方を長期的・段階的に引き下げていく仕組みをとっている。今回の財政検証は異なる経済前提等に基づく6ケースについて実施されているが、厚生年金では調整期間はそれほど長くなく所得代替率(現役男子の平均手取り収入額との比率)は令和元年度の25.3%から24.6~25.3%と若干の低下に止まるのに対し、基礎年金は調整期間が長く36.4%から26.2~26.7%とかなり低い水準になる見通しである。厚生年金と基礎年金の両方を受給できる会社勤めの人に対し、基礎年金のみの受給者の老後は大きな影響を受けるわけである。

 基礎年金のこのような水準低下が示されたのは今回が初めてではないが、今まではデフレ基調であったため、マクロ経済スライド方式は実際にはほとんど発動されなかった。しかし、経済がデフレから反転しマクロ経済スライド調整方式が毎年のように発動されるようになると、基礎年金水準の低下は現実に進んでいく。現役時代の保険料未納等に起因するいわゆる低年金生活者の老後保障に関しては昨年10月から年金生活者支援給付金という加給制度の実施が始まったが、上で述べた基礎年金水準の低下は一部の高齢者だけが直面するわけではない構造的な問題なのである。

 では、基礎年金水準の低下に備えるためにどんな打開策があるだろうか。以下はアイデアの段階にすぎないが、一つの案として、今回の財政検証作業の一環としてオプション試算された年金加入(保険料納付)期間の延長がヒントとなる。現在の制度が前提としている40年加入を45年に延長すれば、保険料納付を5年延長した分だけ年金額を増加させることが可能になるからである。国民年金は原則20~60歳の40年間を前提に制度設計されているが、支給開始年齢である65歳までの45年間とする案は十分検討に値する。ただ、保険料納付期間の延長については、国民の理解が必要となろう。別案としては、マクロ経済スライド調整の期間が厚生年金で終了した後も長く基礎年金に適用されてるルールを見直し、給付水準低下の一部を厚生年金にシフトさせるという方向での見直しも考えられる。ただ、これは国民年金と厚生年金の給付水準のバランス変更になるため2つの制度間の調整が必要であり、所得の再分配もからむより根幹的な検討が必要となってくる。

 よりラディカルな案としては、一旦封印された公的年金制度全体の一元化議論を再開し、最低保障年金制度も含めた年金制度全体の再編成の検討に着手するという選択肢もありえる。最低保障年金をその名に値する水準に設定するためには負担増加に向けた国民の理解が不可欠なので政治的なハードルは極めて高いが、所得捕捉の透明性という技術的な障害は以前に比べて改善したように思われる。

 いずれにしても、基礎年金水準の低下は今後着実に進んでいくので、我々が老後保障のために年金制度をどう設計していくのかを自分の問題として認識し、早急に検討に着手しなければならない。年金制度は長期的な仕組みであるだけに制度の切替えにも時間がかかる。いつまでも先送りはできない大きな懸案事項である、ことだけは確かである。