同志社大学 政策学部

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「対等」という視点

投稿者 太田 肇:2019年11月1日

投稿者 太田 肇:2019年11月1日
「世界一幸福な国」の背景にあるものは何か? それを探るためこの夏にノルウェーを訪ね、企業、官庁、学校などで聞き取り調査を行った。国連の関連組織が毎年発表している「世界幸福度報告」によると、2017年にノルウェーは幸福度が世界一だった(なお2019年はフィンランドが1位でノルウェーは3位)。ちなみに日本は2019年現在、156か国中、58位である。

ノルウェーはまた世界一フラットな国だともいわれている。王室以外に「偉い」人はいないし、会社でも新入社員が社長に平気で意見を述べているそうだ。いつも一緒に昼食をとりながら親しく話していた人が社長だと後で知った、というエピソードも聞かされた。 もちろん企業など組織のなかに上下関係はある。それがないと組織は機能しない。しかし、その上下関係は社長と社員、上司対部下という役割の違いにすぎず、人格的には対等である。それはノルウェーにかぎらず、欧米などたいていの国では当たり前である。

ところが日本では中根千枝の「タテ社会」論がつとに指摘しているとおり、役割を超えた上下関係が常につきまとう。上司と部下は単なる役割上の関係にとどまらず、人格的な要素が介在する。組織は権限の階層であると同時に「偉さ」の序列でもあるわけだ。

それがいま、さまざまな問題を引き起こしている。たとえばパワハラ(パワーハラスメント)は職務上で必要な範囲を超えて上司が部下に対して「パワー」を行使するものであるし、上司の意向を「忖度」して不正を働くのも上司の非公式な影響力が背後に存在しているためである。また最近は上司と部下の年齢が逆転するケースも増えているが、双方に戸惑いや抵抗感が見られるのは人格的な上下関係を引きずっているからだろう。

組織のなかだけではない。役人(公務員)と国民、市民との関係もかつては「官尊民卑」の名残がみられたが、近年の公務員バッシングや役所の姿勢にはその逆転現象も垣間見える。企業と顧客、売り手と買い手の関係も、「お客様は神様」という言葉が独り歩きしたことからもわかるように、客のほうが偉いという暗黙の前提のようなものがある。

このような前提としての上下関係は人権上の問題をはらむだけでなく、さまざまなムダ(組織・社会のコスト)を生み、真の民主主義を遠ざける。固定化された上下関係に安住することなく、名実ともに対等な市民社会を築くことが「幸福度」の上昇にもつながるのではなかろうか。