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ポピュリズム

投稿者 松本 明日香:2019年8月1日
みなさん、参議院選挙にはいきましたか? 近年、アメリカでのトランプ大統領誕生やイギリスがEUから離脱するブレグジット(BREXIT)などが「ポピュリズム」的な動きであるといわれます。授業内でも学生さんと輪読をしましたが、ポピュリズムには多種多様な定義があります。そしてポピュリズムは、実に古くて新しい問題です。1969年に発表された論文集でも「世界に幽霊が徘徊している。ポピュリズムという幽霊が」と指摘されているそうです。今回は選挙にも大きな影響を与えるポピュリズムについて、3つの捉え方をご紹介します。
まず1つ目に、ミュデとカルトワッセルが著した『デモクラシーの友と敵』では*1 、ポピュリズムは「エリート」に「人民」が対抗するべきとするイデオロギーだと説明されます。そして、ミュデらは、ポピュリズムの背景に潜む、エリートが人民に痛みを与える構造に、目を向けるべきだと指摘します。とは言うものの、人は痛みから短絡的で不合理な救済を求め、長期的かつ合理的な視野を失いがちです。そのため、常にポピュリズム的な政策が引き起こしうる結果を考慮する必要があります。たとえば、第一次世界大戦後、多額の賠償金によって国民生活が困窮するドイツで、カリスマ的な指導者として誕生したヒットラーとその顛末が挙げられるでしょう。
ミュデらは、右派・左派両方のポピュリズムが、民主化の促進と崩壊、その両方に寄与すると指摘します。ポピュリズムの語源は、19世紀末のアメリカで小農の支持を得て拡大した第三政党の人民党といわれます。この人民党は、エリートに対抗し、アメリカ人一般男性の投票範囲の拡大や累進課税の導入などに貢献しました。このように、ポピュリズムは民主化に寄与してきた側面もあるのです。同様に、ラテンアメリカなどを基礎に生まれた「ラディカル・デモクラシー」は、独裁者に対して激しいデモを繰り返す左派のポピュリストを肯定的に描きます。
しかし、逆に左派ポピュリズム政権下では、たとえばベネズエラのチャベス前大統領のように非民主化を、またはペルーのフジモリ前大統領のように民主化の崩壊をも招くのです。また、現在の欧米でみられる右派ポピュリズムの台頭は、各国内のマジョリティが自分たちを「わたしたち(we)」とみなす副作用で、マイノリティを排除しうるのです。たとえばメキシコ不法移民に対する壁建築や中東移民排斥に見られるでしょう。
次に、2つ目として、トランプ大統領誕生を目の当たりにしたミュラーが著した『ポピュリズムとは何か』では*2 、ミュデらへ反論されています。ミュラーはポピュリズムの一番の特徴として、反エリート主義であること以上に、先ほどの自分と違うものは「人民」ではないとして排除する点を挙げています。そして、ミュラーは、他者を排除する右派ポピュリズムが政治への参加を促す肯定的な面もあるとするミュデらの議論を危険視しています。
このことによって、ミュラーは右派のトランプ旋風などを批判的に捉える一方で、社会民主主義を唱える左派のサンダースは「ポピュリズムではない」として肯定的に捉えます。さらに、ミュラーは、かつて全体主義に陥ったような共産主義は「エリート的だった」のでポピュリズムではなかったと例外視し、左派を擁護するのです。また、ポピュリストの語源といわれるアメリカの人民党ですら、反多元主義でないとして、「ポピュリストではなかった」との免罪符を与えてしまいます。ミュラーは、右派の排外主義を受け入れないという留保がつく多元主義者ともいえるでしょう。
最後の3つ目は、ムフが著した『民主主義の逆説』に見られる、上に挙げた1つ目と2つ目の解釈を昇華した考え方です*3 。アメリカ資本主義的な「新自由主義」と「平等と社会正義を訴える左派」という非妥協的な両者が、相手の存在を排除することなく、競い合う多元的な自由民主主義政治を目指しています。しかしながら、ムフの近刊である『左派ポピュリズム』では、左派・右派両者が議論する場の形成よりも、左派の政治への影響力の回復が急務となってきたとしています*4 。
いずれの考え方をとるにせよ、社会における課題と政策を幅広く見通した上で票を投じることができるのが、よりよい社会づくりの一歩となることでしょう。日本では18歳からに拡大した貴重な一票、活用していけるとよいですね。
*1カス・ミュデ、クリストバル・ロビラ・カルトワッセル『ポピュリズム:デモクラシーの友と敵』永井大輔, 髙山 裕二訳(白水社、2018年)。
*2ヤン=ヴェルナー・ミュラー『ポピュリズムとは何か』板橋拓己訳(岩波書店、2017年)。
*3シャンタル・ムフ『民主主義の逆説』葛西弘隆訳(以文社、2006年)。
*4シャンタル・ムフ『左派ポピュリズムのために』山本圭、塩田潤訳(明石書店、2019年)。
まず1つ目に、ミュデとカルトワッセルが著した『デモクラシーの友と敵』では*1 、ポピュリズムは「エリート」に「人民」が対抗するべきとするイデオロギーだと説明されます。そして、ミュデらは、ポピュリズムの背景に潜む、エリートが人民に痛みを与える構造に、目を向けるべきだと指摘します。とは言うものの、人は痛みから短絡的で不合理な救済を求め、長期的かつ合理的な視野を失いがちです。そのため、常にポピュリズム的な政策が引き起こしうる結果を考慮する必要があります。たとえば、第一次世界大戦後、多額の賠償金によって国民生活が困窮するドイツで、カリスマ的な指導者として誕生したヒットラーとその顛末が挙げられるでしょう。
ミュデらは、右派・左派両方のポピュリズムが、民主化の促進と崩壊、その両方に寄与すると指摘します。ポピュリズムの語源は、19世紀末のアメリカで小農の支持を得て拡大した第三政党の人民党といわれます。この人民党は、エリートに対抗し、アメリカ人一般男性の投票範囲の拡大や累進課税の導入などに貢献しました。このように、ポピュリズムは民主化に寄与してきた側面もあるのです。同様に、ラテンアメリカなどを基礎に生まれた「ラディカル・デモクラシー」は、独裁者に対して激しいデモを繰り返す左派のポピュリストを肯定的に描きます。
しかし、逆に左派ポピュリズム政権下では、たとえばベネズエラのチャベス前大統領のように非民主化を、またはペルーのフジモリ前大統領のように民主化の崩壊をも招くのです。また、現在の欧米でみられる右派ポピュリズムの台頭は、各国内のマジョリティが自分たちを「わたしたち(we)」とみなす副作用で、マイノリティを排除しうるのです。たとえばメキシコ不法移民に対する壁建築や中東移民排斥に見られるでしょう。
次に、2つ目として、トランプ大統領誕生を目の当たりにしたミュラーが著した『ポピュリズムとは何か』では*2 、ミュデらへ反論されています。ミュラーはポピュリズムの一番の特徴として、反エリート主義であること以上に、先ほどの自分と違うものは「人民」ではないとして排除する点を挙げています。そして、ミュラーは、他者を排除する右派ポピュリズムが政治への参加を促す肯定的な面もあるとするミュデらの議論を危険視しています。
このことによって、ミュラーは右派のトランプ旋風などを批判的に捉える一方で、社会民主主義を唱える左派のサンダースは「ポピュリズムではない」として肯定的に捉えます。さらに、ミュラーは、かつて全体主義に陥ったような共産主義は「エリート的だった」のでポピュリズムではなかったと例外視し、左派を擁護するのです。また、ポピュリストの語源といわれるアメリカの人民党ですら、反多元主義でないとして、「ポピュリストではなかった」との免罪符を与えてしまいます。ミュラーは、右派の排外主義を受け入れないという留保がつく多元主義者ともいえるでしょう。
最後の3つ目は、ムフが著した『民主主義の逆説』に見られる、上に挙げた1つ目と2つ目の解釈を昇華した考え方です*3 。アメリカ資本主義的な「新自由主義」と「平等と社会正義を訴える左派」という非妥協的な両者が、相手の存在を排除することなく、競い合う多元的な自由民主主義政治を目指しています。しかしながら、ムフの近刊である『左派ポピュリズム』では、左派・右派両者が議論する場の形成よりも、左派の政治への影響力の回復が急務となってきたとしています*4 。
いずれの考え方をとるにせよ、社会における課題と政策を幅広く見通した上で票を投じることができるのが、よりよい社会づくりの一歩となることでしょう。日本では18歳からに拡大した貴重な一票、活用していけるとよいですね。
*1カス・ミュデ、クリストバル・ロビラ・カルトワッセル『ポピュリズム:デモクラシーの友と敵』永井大輔, 髙山 裕二訳(白水社、2018年)。
*2ヤン=ヴェルナー・ミュラー『ポピュリズムとは何か』板橋拓己訳(岩波書店、2017年)。
*3シャンタル・ムフ『民主主義の逆説』葛西弘隆訳(以文社、2006年)。
*4シャンタル・ムフ『左派ポピュリズムのために』山本圭、塩田潤訳(明石書店、2019年)。