同志社大学 政策学部

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SDGsと日本の対応

投稿者 新川 達郎:2019年2月1日

投稿者 新川 達郎:2019年2月1日
 国際連合は、2015年「持続可能な開発サミット」を開催し、150を超える加盟国首脳が参加して、「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」を採択した。それは「人間、地球及び繁栄のための行動計画」として、すべての人間と地球の未来のための17の目標と169のターゲットを設定したものであり、これらは「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals = SDGs)」と呼ばれている。日本においても、国、地方を問わず、また官、民を問わず、その取り組みが進められている。しかしながら、2019年はすでに取り組みの4年目を迎える年度であるが、その中で「誰一人取り残さない」という考え方の下で、すべての地球市民のためのセクターを問わない取り組みになっているのか、改めて考えて見る必要がある。

 2015年を目標年とした従来のミレニアム開発目標(Millennium Development Goals=MDGs)が南の国々を対象としたのに対して、SDGsはすべての人々と地球のための目標とされているところに大きな特徴がある。その17の目標は人間生活のすべての領域に亘っており、北の国々であれ、南の国々であれ、すべての地域にかかわるものという認識が背景にある。そこには、「1.貧困をなくそう」、「2.飢餓をゼロに」、「3.すべての人に健康と福祉を」、「4.質の高い教育をみんなに」、「5.ジェンダー平等を実現しよう」、「6.安全な水とトイレを世界に」、「7.エネルギーをみんなにそしてクリーンに」、「8.働きがいも経済成長も」、「9.産業と技術革新の基礎をつくろう」、「10.人や国の不平等をなくそう」、「11.住み続けられるまちづくりを」、「12.つくる責任つかう責任」、「13.気候変動に具体的な対策を」、「14.海の豊かさを守ろう」、「15.陸の豊かさも守ろう」、「16.平和と公正をすべての人に」、「17.パートナシップで目標を達成しよう」まで17の目標があり、加えて、それぞれの目標には10以上のターゲットが設けられて、169の具体的な項目があげられている。またそれらの中には、2030年目標値だけではなくそれよりも早く達成すべきもの、そしてその実現のめどとすべき指標も多く含まれている。この目標とターゲット、指標は、一見して網羅的総花的に見えるかもしれないが、いうまでもなく、すべてが相互に深くかかわって持続可能な未来をすべての人々と地球にもたらそうとしていることが強く認識されなければならない。
 日本は、この決議に賛成し、その実現の責務を負っている。具体的に国においては、SDGsに係る施策の実施について、「関係行政機関相互の緊密な連携を図り、総合的かつ効果的に推進するため、全国務大臣を構成員とする持続可能な開発目標(SDGs)推進本部を設置」している。また、各府省においては、それぞれの行政分野にかかわる取り組みを進めている。地方自治体においては、すでに先進的に取り組みを始めたところがあり、北九州市や京都市、また滋賀県などがよく知られているが、今後はこの取り組みがさらに広がっていく状況にある。民間企業においても、日本経団連など経済団体はSDGsの推進をその方針として掲げているし、すでに相当数の大企業ではCSR報告書などにおいてSDGsへの取り組みを大きく取り上げており、実際に積極的な取り組みも進んでいる。
 日本国政府では、当初の動きは鈍く、国連決議採択後1年経過してようやく本格的な取り組みを開始することになった。そのための2016年12月にSDGs推進のための実施指針を決定し、さらに1年後の17年12月に「SDGsアクションプラン2018」を明らかにしている。2018年6月には「拡大版アクションプラン2018」を明らかにし、12月には「SDGsアクションプラン2019」を定めている。そこにおける基本的な論調に変化はないのであるが、政府全体にSDGsの目標との関連付けをしていこうとする方向は見られ始めている。
 最新のプラン2019では、「Ⅰ. SDGsと連動する「Society 5.0」の推進」「Ⅱ. SDGsを原動力とした地方創生,強靱かつ環境に優しい魅力的なまちづくり」「Ⅲ. SDGsの担い手として次世代・女性のエンパワーメント」の3つを中核とした方針を日本のSDGsモデルとするとしている。具体的な実施指針の8分野としては、「①あらゆる人々の活躍の推進」「②健康・長寿の達成」「③成長市場の創出、地域活性化、科学技術イノベーション」「④持続可能で強靭な国土と質の高いインフラの整備」「⑤省エネ・再エネ、気候変動対策、循環型社会」「⑥生物多様性、森林、海洋等の環境保全」「⑦平和と安全・安心社会の実現」「⑧SDGs実施推進の体制と手段」が掲げられている。また、2019年6月には大阪でG20が開催予定であるが、議長国日本としては、国際社会の取り組みを牽引するため科学技術イノベーションの活用推進をうたい、強靭で環境にやさしい国づくりのための質の高いインフラ、防災、海洋プラスチックごみ対策、気候変動対策等に貢献するとしている。
 日本国政府としてのコミットメントはあるのだが、それらが日本国民を含めたすべての地球市民に貢献するものとなっているのか、とりわけ多くの問題を抱える南の国々、そして日本など先進工業諸国やそれに続く国々でも国内にある諸問題を解決する方向に向かっているのか、厳しく問われなければならない。アジェンダ30の目標年次の3分の1の期間を迎えようとしている今、緒についたばかりとはいえない段階にきているはずである。
 このことはまた、地方自治体や民間企業、そして市民レベルの取り組みについてもまた同様に指摘できる。公共部門は言うに及ばず、民間部門においては企業市民、事業者市民としての責務また市民社会の市民としての責務をどのように果たしていくのか、政策的に考えるだけではなく行動を起こしていくべき課題が山積されていることを、多くの人々が銘記すべきであろうし、政策を学ぶものの使命もそこに深くかかわってきているといえよう。