同志社大学 政策学部

政策最新キーワード

「学校内塾」の可能性

投稿者 田中 宏樹:2018年11月1日

投稿者 田中 宏樹:2018年11月1日
 「『学校内の塾』急成長」-日経新聞2018年7月10日付けの朝刊に掲載された記事の見出しである。「これは面白そう、調べてみよう」と感じ、事業を手掛ける(株)エデュケーショナルネットワークに連絡、社員の方に大学にお越しいただき、ゼミ生との質疑応答の機会をいただいた。以下、その概要を紹介しつつ、「学校内塾」の意義について考えてみたい。

 「学校内塾」とは、塾や通信教育、家庭教師などを手掛ける民間教育事業者が、自治体の委託を受け、学校関連施設に講師を派遣する「出張塾事業」である。(株)エデュケーショナルネットワークでは、これまで首都圏を中心に受託を広げてきたが、最近では、尼崎市、草津市、高石市、守口市など、関西圏でも受託の実績が出始めている。公立小中学校に通う児童生徒を対象に、放課後や土曜日などに空き教室などを活用して行なう「補習」が中心で、自治体にもよるが、家庭の経済的事情により塾に通えず、学習のつまずきを抱える子どもに、原則無料で集団あるいは個別指導を実施する形式が大半を占めているという。
 話を伺ってみて、教員の時間やノウハウに限りがある学校現場と、塾に通っていない児童生徒を新たに確保したい民間教育事業者との利害が一致し、公教育支援の公民連携モデルとして、今後も成長が期待できると感じた。ただ、ビジネスとしての成功以上に、家庭の貧困を原因とする学力低下に歯止めをかける役割を期待できるのではとの思いを強くした。所得格差の指標であるジニ係数と通塾率との間にはマイナスの相関があるという実証結果も報告されており、家庭間の経済格差は、塾や家庭教師といった「有償の教育機会」の格差を生みやすいと考えられるからだ。
 学校以外への教育機会の格差が、学力格差や進学格差を生み出す一因ならば、「有償の教育機会」への公費投入も、政策の選択肢に上ってくる。その具体例として、誕生して間もない「学校内塾」が、教育の機会均等と教育の質の向上に資する事業として成長できるかに、今後も注目していきたい。