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地域公共図書館の意義

投稿者 武蔵 勝宏:2016年12月1日
総合政策科学研究科に図書館情報学コースがあることをご存知の方も多いと思う。その関係からか、私の授業の受講生からも昨今の日本の公共図書館の現状などについてお聞きする機会がある。かなり以前から指摘されていたことだが、指定管理者制度などが公共図書館にも導入されて、開館時間の延長など便利になった半面、図書の選定やスタッフの専門性などで問題も目に付くといったことがその主なものだ。
ところで、私自身は公共図書館を利用することはめったにない。大学という職場に身を置いているので、自分の専門に必要なことは大学図書館で全部間に合う。ところが、この9月まで在外研究でロンドンに在住した期間、地域の公共図書館に本当にお世話になった。私が住んでいたロンドン北部のバーネット区は、中産階級が多く住む閑静な住宅地と聞いていた。あのサッチャー首相の現役時代の選挙区もここだ。実際は、現在のバーネット区ではイギリス人は住民の6割程度で、それ以外の4割はロンドンの他の地区と同じく、アジアや中東、アフリカ、そして、東欧などからの移民によって構成される、典型的な多文化・多民族の地域であった。日本人もこの地域では当然、マイノリティの一員であり、駐在員や研究者の家族も多く在住していた。区の公共図書館は地区ごとに全部で15以上もあったが、それぞれの図書館ごとに、こうした多文化社会を反映してか、住民をイギリスの社会に受け入れるためのいろいろなプログラムが提供されていた。筆者が配偶者と一緒に参加していたのは、English Conversation Caféという、それこそコーヒーコップ片手に、気楽な雰囲気で英語を母国語としないものが会話を楽しむというサークル活動のようなものである。毎週定期的に開催されるこのカフェの先生は、元英語教師という方もおられたが、たいていは図書館員が輪番で講師役を務めていた。生徒は、私を含めて全員マイノリティで、高齢者から子育て中の若い世代の方まで幅広い人が参加して楽しい時間を過ごすことができた。おかげで、在英中に親しくなった友達は、イギリス人よりも、ポーランドやルーマニアなどの東欧の人のほうがおおかった。イギリスのEU離脱が6月の国民投票で決まったことから、こうした東欧の知人たちが将来を見据えて帰国することが相次いだのは悲しい気持ちだった。
このほかにも、図書館では、イギリスの小説やコミックスを読む会や、チェスやスクラブルなどのボードゲームの会、初心者向けのパソコン講習会や、乳幼児と保護者の家族同士が交流するトドラークラスなどが定期的に行われていて、毎日図書館に行けばなにがしかのeventがあるという状況であった。これだけの企画の実施のためには、図書館員の努力は並大抵ではないと思うが、ボランティアの活用なども進んでいて、本の貸借返却や整理だけでなく、event関係のボランティアの募集もよく行われていた。おおむね図書館の利用者からの満足度は高いだろうとおもっていたところ、帰国前になって、図書館の整理縮小計画が発表されて驚いた。区の保守党政府の意向で、図書館の職員数の3分の1カット、利用率の低い図書館の廃止、コストのかかるトドラークラスの廃止などである。職員のカットは図書館のサービス低下に直結する。職員によるストライキなども実施されたが、地方政府の意向は変わらなかった。確かに、地域ごとに分散した図書館では、蔵書数にも限りがあり、調べ物には不便である。しかし、そのために、現物の図書の代わりに、電子化された図書をインターネット上で利用可能にするという提案は、職員削減の言い訳のようにも聞こえる。図書館の統廃合は、何よりも交通弱者や小さな子供を抱えた保護者のアクセスを不便にする。また、人員削減は情報システムを入れることで無人化しても対応できるという、およそ現実離れした提案を地方政府側はしていたが、それでは、地区の小さな図書館ごとに職員の熱意で支えられているeventの存続は極めて難しくなるだろう。地域の高齢者やこども、移民してきたばかりの多様な人たちが集い、交流する場所としての公共図書館の機能も失われかねない。
日本においても、公共図書館の未来は人口減少や財政赤字によって整理縮小されていくことになるのだろうか。しかし、たとえ、街の小さな図書館であっても、努力次第で、地域社会の発展や統合にも寄与することは可能である。それは私自身の体験からも無視できない事実であると思う。
ところで、私自身は公共図書館を利用することはめったにない。大学という職場に身を置いているので、自分の専門に必要なことは大学図書館で全部間に合う。ところが、この9月まで在外研究でロンドンに在住した期間、地域の公共図書館に本当にお世話になった。私が住んでいたロンドン北部のバーネット区は、中産階級が多く住む閑静な住宅地と聞いていた。あのサッチャー首相の現役時代の選挙区もここだ。実際は、現在のバーネット区ではイギリス人は住民の6割程度で、それ以外の4割はロンドンの他の地区と同じく、アジアや中東、アフリカ、そして、東欧などからの移民によって構成される、典型的な多文化・多民族の地域であった。日本人もこの地域では当然、マイノリティの一員であり、駐在員や研究者の家族も多く在住していた。区の公共図書館は地区ごとに全部で15以上もあったが、それぞれの図書館ごとに、こうした多文化社会を反映してか、住民をイギリスの社会に受け入れるためのいろいろなプログラムが提供されていた。筆者が配偶者と一緒に参加していたのは、English Conversation Caféという、それこそコーヒーコップ片手に、気楽な雰囲気で英語を母国語としないものが会話を楽しむというサークル活動のようなものである。毎週定期的に開催されるこのカフェの先生は、元英語教師という方もおられたが、たいていは図書館員が輪番で講師役を務めていた。生徒は、私を含めて全員マイノリティで、高齢者から子育て中の若い世代の方まで幅広い人が参加して楽しい時間を過ごすことができた。おかげで、在英中に親しくなった友達は、イギリス人よりも、ポーランドやルーマニアなどの東欧の人のほうがおおかった。イギリスのEU離脱が6月の国民投票で決まったことから、こうした東欧の知人たちが将来を見据えて帰国することが相次いだのは悲しい気持ちだった。
このほかにも、図書館では、イギリスの小説やコミックスを読む会や、チェスやスクラブルなどのボードゲームの会、初心者向けのパソコン講習会や、乳幼児と保護者の家族同士が交流するトドラークラスなどが定期的に行われていて、毎日図書館に行けばなにがしかのeventがあるという状況であった。これだけの企画の実施のためには、図書館員の努力は並大抵ではないと思うが、ボランティアの活用なども進んでいて、本の貸借返却や整理だけでなく、event関係のボランティアの募集もよく行われていた。おおむね図書館の利用者からの満足度は高いだろうとおもっていたところ、帰国前になって、図書館の整理縮小計画が発表されて驚いた。区の保守党政府の意向で、図書館の職員数の3分の1カット、利用率の低い図書館の廃止、コストのかかるトドラークラスの廃止などである。職員のカットは図書館のサービス低下に直結する。職員によるストライキなども実施されたが、地方政府の意向は変わらなかった。確かに、地域ごとに分散した図書館では、蔵書数にも限りがあり、調べ物には不便である。しかし、そのために、現物の図書の代わりに、電子化された図書をインターネット上で利用可能にするという提案は、職員削減の言い訳のようにも聞こえる。図書館の統廃合は、何よりも交通弱者や小さな子供を抱えた保護者のアクセスを不便にする。また、人員削減は情報システムを入れることで無人化しても対応できるという、およそ現実離れした提案を地方政府側はしていたが、それでは、地区の小さな図書館ごとに職員の熱意で支えられているeventの存続は極めて難しくなるだろう。地域の高齢者やこども、移民してきたばかりの多様な人たちが集い、交流する場所としての公共図書館の機能も失われかねない。
日本においても、公共図書館の未来は人口減少や財政赤字によって整理縮小されていくことになるのだろうか。しかし、たとえ、街の小さな図書館であっても、努力次第で、地域社会の発展や統合にも寄与することは可能である。それは私自身の体験からも無視できない事実であると思う。