同志社大学 政策学部

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"黒い羊"効果 ―ベッキーってそんなに悪い奴?

投稿者 久保 真人:2016年5月23日

投稿者 久保 真人:2016年5月23日
 この欄を書くためにネット上の「ベッキー報道のまとめ」をながめてみた。それによると、今年の1月7日に発売された週刊文春の記事が発端だったようだ。その後、記者会見や謝罪の手紙、そしてTV出演など、ベッキー(そして所属する事務所)の努力の甲斐もなく、そのたび毎に、「火に油をそそぐ」状況を繰り返している。
 多数のレギュラー番組やCMを抱え、好感度タレントだったベッキーは、この騒動を境に、すべての番組、CMを失い、様々なメデイアからバッシングを受ける存在になった。まさに、マスコミそして世論(と称されるもの)から、完膚なきまでにたたきのめされたと言っても過言ではないだろう。

 今の状況を招いたのは「身から出たさび」なのは事実だし、不倫、そしてそれにまつわる言動が、今までのイメージとは違いすぎる(裏切られた!)という言い分も理解できるが、ベッキーは、これほどの仕打ちを受けなければならないほど悪い奴なのだろうか?
 心理学では、"黒い羊"効果という現象が知られている。一匹の黒い羊が白い羊から受け入れられず、排除されるという聖書の故事にちなんでこの名がある。身内(内集団)の好ましくないメンバーは、外の集団の好ましくないメンバー以上に悪い評価を受けるという現象を指して、こう呼ぶ。なぜこのような身内のメンバーに対するバッシングが起こるかについては、私たちの自尊心の維持が深く関わっていると言われてきた。
 自尊心とは、自分に対する評価であり、高い自尊心を保つことは快適な状態であり、それゆえ、自己評価を高めるため、日常様々な方策を用いている。所属集団の善し悪しも、自尊心を構成する重要な要素である。優れた人と同じ集団に所属しているという感覚は、私たちの自尊心を否応なく高めてくれる。身内の"変な奴"(黒い羊)へのバッシングが起こるのは、黒い羊に集団の優秀性(結果として自尊心)を低めるリスクを感じるからである。そこで、私たちは、黒い羊を集団から排除することによって、集団の価値ひいては自分の価値を守ろうとするのである。
 この意味で、黒い羊を攻撃するメンバーには共通の目的があることになり、ともにバッシングすることで、不思議な一体感が生まれてくるのである。また、いったん黒い羊のラベルを貼られた人は、容易に負の連鎖から抜け出せなくなる。黒い羊が何を言っても、白い羊は攻撃の手を緩めてはくれない。前述したように「火に油をそそぐ」だけである。
 さらに言えば、集団に対する一体感が強いほど、また、自尊心が不安定な人ほど黒い羊効果を起こしやすい。個人的な印象では、ベッキーに限らず、世論(と称されるもの)を背景としたマスコミが、特定の人を袋だたきにする構図は、特に日本のマスコミに多く見られる現象のように思える。マスコミ業界の成り立ちなどに由来する部分も少なくないと思うが、同一民族同一国家(それゆえ一体感を持ちやすい)という、わが国の成り立ちや他人と比べることで自分の価値を確認しようとする傾向が強いなど、日本人固有の要因が影響しているように思えてならない。
 もう一つ例をあげれば、熊本での震災の後、一部のネットユーザーが有名人のブログの内容を攻撃し、いわゆる炎上させてしまう「不謹慎狩り」と呼ばれる現象が横行している。これも同じ根を持つ行動のように思える。戦前の「非国民」を連想させ、全体主義的な危うささえも感じる。
 ベッキーってそんなに悪い奴だろうか?世論(と称されるもの)に迎合しがちなマスコミの一方的な論調に惑わされず判断したいものである。