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インパクト、アウトカム、アウトプット、の違いがわかりますか?

投稿者 中嶋 愛:2023年12月1日

投稿者 中嶋 愛:2023年12月1日


 国の経済運営の基本として毎年発表される「経済財政運営と改革の基本方針」(いわゆる「骨太の方針」)で「インパクト」という言葉が初めて使われたのは2022年のことです。2023年の骨太方針には、「社会的起業家」を初めて「インパクトスタートアップ」と呼ぶなど「インパクト」は合計10回も出てきます。ちなみに「イノベーション」は24回、「インバウンド」は4回です。通常「インパクト」は「衝撃」や「大きな影響」といった意味で使われますが、経済政策的文脈で使われる場合の「インパクト」は「事業や活動の結果として生じた、社会的・環境的な変化や効果」を指します。負のインパクトも正のインパクトもありますが、政策や事業の目標としてのインパクトは、もちろん正のインパクトです。
 骨太の方針でも言及されている「インパクト投資」とは、金銭的リターンだけでなく、環境問題や格差問題等の社会課題の解決につながる効果を追求する投資のことです。同様に、「インパクトスタートアップ」も、ビジネス上の利益だけでなく、社会的価値の創出と持続的な成長を目指す新規事業を指します。

社会課題はシステムレベルで解決

 このインパクトという概念は、当初は国際開発系の金融機関などで使われていました。それが行政や非営利の世界にも拡がり、昨今は一般の営利企業もインパクトという考え方に関心を向けています。現代の社会課題は、気候変動にしても貧困問題にしても、複雑かつ大規模で、その解決のためには政府、企業、NGO・NPOなどによるクロスセクターの協働が必須です。同じ問題に取り組む複数のプレイヤーの共通の目標として、中長期的なシステムレベルの変化を言語化し、評価・測定の対象にすることが必要になってきたのです。
 公共部門、民間部門にかかわらず、多くの組織は、自分たちの政策、商品、サービスの内容および規模などで成功を定義してきました。政府部門であれば「〇人分のワクチンを確保し無償提供した」、民間部門であれば「〇枚の服をリサイクルした」という具合に「アウトプット」に注目してきました。

SDGsも採用しているアウトカム評価

 これと対比されるのが「アウトカム」という考え方です。たとえば「〇人分のワクチンの提供によって地域の死亡率が〇割抑えられた」とか「〇枚の服をリサイクルした結果、温室効果ガスの排出が〇割減った」という成果が「アウトカム」です。インパクトはアウトカムの蓄積や規模の拡大によってもたらされる中長期的な変化です。SDGsもアウトカム評価を採用しています。
アウトカムベースの指標を使うことで政策や社会的プログラムの「インパクト」を評価できるようになりました。それによって、ソーシャル・インパクト・ボンドやインパクト投資などの資金調達手法も広まっていきました。

批判や課題を越えて

 しかしながら、アウトカムベースの評価で効果のあるものとないものに選別し、達成された成果に対して報酬を支払うというかたちの社会的介入も、パフォーマンス測定自体の目的化、短期主義などのアウトプット評価と同様の弊害をもたらしているという批判もあります。社会学者のデヴィッド・グレーバーの言葉を借りれば、聞こえのいい新しい言葉でブルシット・ジョブ(クソどうでもいい仕事)を増やしただけだった、というわけです。また、いかにアウトカムベースの評価が厳密に行われたとしても、結局は受益者ではなく政策立案者、出資者の意向が最優先されるという指摘もあります。
 アウトカム評価を、社会的インパクトをもたらすためのツールとして機能させるには、共通の目標を掲げる複数のプレイヤーが、互いを管理・監視するためではなく、学び合いや対話を促進するための仕組みとして活用していくことが求められるでしょう。

(参考文献)
  • 「経済財政運営と改革の基本方針 2023加速する新しい資本主義」(内閣府)2023.
    https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/honebuto/2023/2023_basicpolicies_ja.pdf
  • マックス・フレンチ,「社会的インパクト測定をめぐる2つの実験」,『スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー 日本版 VOL.1』, SSIR Japan (2022).
  • マーク・J・エプスタイン, クリスティ・ユーザス『社会的インパクトとは何か』 鵜尾雅隆ほか監修, 松本裕訳英治出版(2015).
  • 須藤奈応『インパクト投資入門』日本経済新聞出版(2021)
  • デヴィッド・グレーバー『ブルシット・ジョブ』酒井隆史ほか訳、岩波書店(2020)