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エネルギー貧困

投稿者 伊川 萌黄:2023年8月1日

投稿者 伊川 萌黄:2023年8月1日


 「子供の貧困」「生理の貧困」…最近「〇〇」の貧困という言葉をよく聞く機会が増えましたが、「エネルギーの貧困」という言葉を聞いたことはありますでしょうか?海外ではEnergy Poverty(Fuel Poverty)としてよく知られている言葉で、新聞などのメディアから政策パッケージにいたるまで、1990年代頃から広く使われるようになった言葉ですが、日本ではまだあまり認知されていないようです。エネルギー貧困であると問題視される状態には二種類あります。
 ひとつめは、「社会的・文化的に必要最低限のエネルギーサービスを享受できない状態」(引用)のこと。なにをもって「社会的・文化的」であるのかは、国によって異なります。例えば、日本であれば、「熱中症になってしまうほどにエアコンを使うことができない」状態は、「社会的・文化的」とはいえないでしょう。アフリカ諸国などの低所得国であれば、「電気を使うことができない状態」をエネルギー貧困というなど、国によって「エネルギー貧困」の目安は異なります。
 エネルギー貧困のもうひとつの状態は、「社会的・文化的に必要最低限のエネルギーサービスを享受すると家計を圧迫してしまう状態」のことです。この考え方のもとでは、仮に「社会的・文化的に必要最低限のエネルギーサービス」を享受できたとしても、そのために食費を削らざるをえなかったり、他の世帯に比べて著しく大きなエネルギー支出がなされていたら「エネルギー貧困」とみなします。欧州などの先進国ではこの二つ目の考え方にもとづいてエネルギー貧困を計測するのが主流で、ある世帯がエネルギー貧困であるかどうかを「生活に必要なエネルギー支出が可処分所得に占める割合が10%以上である場合」や「生活に必要なエネルギー支出が国内平均値以上で、かつそのエネルギー費を支払ったあとの所得が相対的貧困レベル以下である場合」などの基準ではかる指標が使われています。この考え方は、住宅の断熱性能が低いために、一定の快適性を保つためにより多くのエネルギー支出を必要とすることを問題視しています。
 それでは、日本のエネルギー貧困率はいったいどれほどなのでしょうか?先に述べたとおり、エネルギー貧困には二つの側面があり、対象とする国・地域によって貧困とみなすレベルも異なるため、複数の指標を使って問題の大きさを把握することが必要です。例えば、エアコンを所有している世帯のうち「平日の暑い日に冷房を使っていない」世帯の割合は、環境省の統計によると約2.3%となります 。日本の生活保護率が約1.6%であることを考えると、決して少ない割合ではないでしょう。また、2019年の『全国家計構造調査』(総務省)によれば、年間収入が100万円未満の世帯の光熱費は月平均8,482円であり、年間では収入の10%を超える支出がなされていることがわかります
 脱炭素化政策として再エネ・省エネ推進が今後ますます取り組まれる中で、こうしたエネルギー貧困層をおきざりにすることのない政策を考える必要があるのではないでしょうか。


  • ⅰ 環境省『家庭部門のCO2排出実態統計調査』の直近5年分(平成29〜令和3年)の公表データより筆者計算。
  • ⅱ ただし、同調査は比較的エネルギー支出の少ない10月・11月の支出費が対象となっているため、年間平均は月平均に12をかけたものよりも大きい可能性がある。